第60話 白鷺の貴公子
俺が目の前で見てるのは…
まるでお伽噺に出てきそうな、綺麗な顔をした
王子様のような霧嶋が、真古都の手にキスをして
プロポーズをしているところだった…
俺が花火の確認をしていると、同じ係のヤツが
教えてくれた。
「おい瀬戸、お前の彼女プロポーズされてるぞ」
「はあ?」
こんなバカな真似をするのは霧嶋ぐらいだ。
全く、次から次へと問題ばかり起こしやがって
何考えてるんだ!
校庭では、真古都の手にキスをする霧嶋を
周りにいるヤツらがはやし立てていた。
真古都は真っ赤な顔で俯いている。
「悪い、通してくれ」
俺は周りにいる生徒たちの間をぬって、
迷わず真古都の傍に行き声をかける。
「もう大丈夫だ」
真古都は俺を見ると
縋るように手を伸ばしてきた。
俺はその手を強く握ってやる。
「せ…瀬戸くん」
今にも泣きそうな顔で俺を見る。
俺は真古都を抱え上げると、
その場から離れ始めた。
「霧嶋! お前も来い!」
俺たちを周りのヤツらが色々言って来るが、
そんな事は構ってられない。
不安がってる
早く安心出来る場所に移さないと…
真古都を部室に連れていき、ソファーに寝かせ
暫くゆっくりしているように伝えた。
真古都は俺のシャツを掴んで訊いた。
「ど…どこ行くの? また来てくれる?」
シャツを掴んでる手が震えてる。
あんなに大勢の前に出されたんだ
真古都にとってはきっと怖かったに違いない…
「霧嶋とちょっと話をしてくる。
帰りは俺が送ってやるから安心しろ」
頷く彼女の頬を優しく撫でた。
美術室に入ると、霧嶋が窓から外を眺めている。
「どう云うつもりなんだ?
真古都をあんな人前に晒すなんて!」
「別に…僕の気持ちをちゃんと伝えたかっただけですよ」
霧嶋が表情も変えずに答える。
「こう見えて、結構忙しいんですよ
だから、早く真古都さんと一緒になりたくて」
「だからって…結婚…なんて」
「あれっ?
先輩も恋愛と結婚は別って人ですか?
だったら尚更
もう僕のすることに口を出さないで下さい」
霧嶋は笑顔を向けながら続ける。
「僕は本気なんです
彼女には僕の傍にずっといて欲しい
そのためなら何だってしますよ」
霧嶋は、男の俺から見たって
綺麗な顔立ちだと思う。
白鳥のような力強さでなく
白鷺のような折れてしまいそうな
そんな儚げな感じだ。
俺とは真逆だな…
「前にも言った!真古都は渡さない!」
俺も霧嶋に言う。
霧嶋は暫く俺を見て、もう一度笑った。
「お好きにどうぞ
でも、僕の邪魔はしないで下さいね」
俺なんて眼中に無い…そんな感じだった。
部室に戻ると、俺の顔を見た真古都が
安心したような顔を見せてこっちに走ってくる。
俺の少し手前で立ち止まると
もう一度俺の顔を見る。
「どうした? 来ないのか?」
真古都に訊いた。
「行っても…いいの…?」
俺は真古都が止まって出来た距離の分だけ
彼女の傍に行った。
俺が出した手をそっと握り返してくれる。
「大丈夫だ。絶対離さない」
俺を見る真古都の眼から
「や…約束だよ?」
霧嶋くんがわたしみたいな女の子に
プロポーズをしてくれた。
それは嬉しかったけど…
わたしは、今握られてる手の安心がいい
瀬戸くんはいつだってわたしに安心をくれる
この気持ちがよく判らないけど
瀬戸くんが嫌じゃなければ
このまま彼の傍にいたかった
「約束する」
瀬戸くんは
その後、いつもよりずっと長いキスを
わたしにしてくれた。
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