第42話 日常の中の試練

 「そう云えば、あの写真どうしたんです?」

霧嶋が、青蘭の女子に見せた写真の出所を訊く。


「ああ…あれか…

実は中学の知り合いに変わったヤツがいて、

2次元にしか興味がなく、仲間同士で同人誌やらフィギュアやら作っててな…

その活動資金を盗撮写真で稼いでるヤツがいるんだよ」

俺は少し言葉を濁しながら答える。


「とっ…盗撮ですか!?」

まぁ、びっくりして当然だ。


「変な写真じゃないが、ブロマイドの如くネットで売り捌いてるらしい。」

「うっ!…こわっ!」


「まぁそう言うな、お陰で今回助かったんだから…」

「知らないところで自分の写真を売られてる身になってくださいよ!」

霧嶋の言う事も判る…

「確かに、お前の綺麗な顔は、女に人気らしいからな」

「好きでこの顔に生まれた訳じゃありませんよ!……あれっ?」

不貞腐れてそっぽを向いた時、窓の外で何かが目に止まったらしい。


「あーっ!真古都さんが男の人と一緒だ!」

花壇の側で肥料の袋を抱え、知らない男子と話をしている。


「何やってるんだ、アイツ…」

「僕ちょっと行ってくる!」

霧嶋が慌てて出ていった。



「あの…本当に大丈夫です…ありがとうござ…」

そこまで言いかけたところで、後ろから腕を回され抱き竦められた。


「彼女に何かご用ですか?」

営業スマイルと云うか、スマートな笑顔を相手の男子に向ける。

さっきの慌てぶりが嘘みたいだ。


「い、いや、大変そうだったから声をかけただけだよ、それじゃあ、また…」

霧嶋を見た途端、相手の男子はそそくさと立ち去って行った。

俺と霧嶋の噂から、相手の女の子に興味本位で近づいたんだろうが…


『まぁ、顔で霧嶋に勝てるヤツはそうそういないだろうから、大概はああなるな』


噂なんてものは、大概そのうち収まる。

俺と真古都の噂も、暫くすれば落ち着くはずだった。

霧嶋の真古都へ固執だけが誤算だったんだ。


「霧嶋が二年の女にご執心らしい」

「霧嶋が口説いてる女の子って、

同じ部活の三ツ木真古都なんだって」

「三ツ木って、同じ部活の瀬戸と付き合ってるんだよね」

「霧嶋が相手じゃ、気が気じゃないだろうな」


真古都は確かに、美人でも可愛い訳でもない…

でも、真古都の良いところは俺が一番よく知っている。

俺が側にいて欲しいのはアイツだけだ。


俺の言う事に素直に喜んだり

俺の為に弁当を作ってくれたり

何よりも、真古都は俺を信じてくれてる


なのに……

俺は…未だに自分の気持ちを

真古都に伝えられないでいる…


『くそっ!』


《霧嶋が相手じゃ、取られちゃうかもな》


冗談じゃない!

そんな事あってたまるか! 



じゃなく、ちゃんと付き合わないと…


真古都の教室に、彼女を迎えに行くと、

丁度クラスの男子と話をしているところだった。


「それじゃあ頼むね」

「はい」


『アイツなに、他の男に手握られて、赤くなってるんだよ』

俺は少しカチンときた。

ところが、その男子がいなくなったら

いきなり真古都が水道で手を洗い始めた…


「あははははっ!」

「クスクス…」

部室で瀬戸くんも霧嶋くんも笑ってる…


「もう、なによ二人とも…」

「お前が他の男に手を握られた後、

いきなりその手を洗い出したからだろ?」


「だって…男の人に触られるの

ホントに気持ち悪いんだもん…」

前から判っていたが真古都は男が苦手だからな…


「えっと…今更だけど、僕たちは

大丈夫なんだよね?」

霧嶋は真古都がどれくらい男が苦手か知らない…


「う…うん、多分二人ともわたしみたいな女の子にも親切にしてくれるからだと思う…」


「わたしが…ブサイクなのがいけないんだけど

よっぽどの理由がない限り

自分から声をかける男子なんていないもの…

そんな人が触ってきたら

やっぱり気持ち悪い

どうして良いのか判らない」


おいおい…

親切ってなんだよ…

気持ち悪いより

そっちの方が問題だぞ…

自分に好意があるとか思えないのか…

そう思ってくれないと

俺の気持ちは

ずっと一方通行のままだぞ…


『何とかしないと…』



俺と真古都は駅に向かって歩いている。

真古都への気持ちを自覚した日から

アイツを家まで送ってる。

少しでも俺の側に置いときたいから…


商店街を抜けた所で嫌な奴らと出会した。

真古都のクラスメイトだ。


「あれ~瀬戸くん。もしかしてデート中?

ホントにこの女と付き合ってんの?

一年のダントツ美人を振ってまで、

こんな女のどこが良いんだ?」

「おい、余計なこと言うな!俺が誰と付き合おうがお前らには関係ないだろ!」

隣を見ると真古都のヤツが、申し訳なさそうに俯いている。


「真古都行くぞ」

俺は彼女の背中を軽く叩き、一緒に来るよう促した。

「はいっ」


「真古都、あいつらの言う事は気にするな。

その…なんだ、俺もお前と一緒で…好きなヤツと付き合いたいんであって…可愛ければ良いわけじゃないから…」

「うん、ありがとう」


「なぁ、ちょっとこれからあいつらがどこ行くかつけてみねぇ?」

「なんで?」

「A組のヤツが真面に三ツ木と付き合ってるのか疑問じゃん。」

取り返せるかもな」

「だろ?これからも楽しませて貰う筈だったのに!横からかっさらいやがって!」

「三ツ木、何しても文句言わねぇから遊ぶの丁度良いもんなぁ」


『クズ共がっ!』

一年の頃からあいつらが真古都を揶揄って遊んでいたのは薄々気づいていた。

これ以上、悪戯も度を越えてきたら危険だ!


今ならある程度コイツを守ってやれる


『その為にも、もう少しだってアピール出来たら良かったな…』


駅が近くなって、あのクズ共がついてきてるのに気づいた。


「……真古都、どこかでお茶飲むか?」

「いいの?…行きたい」

真古都がいつもの笑顔を見せる。


俺たちはそのまま駅の向こう側へ歩いていく。













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