第38話 これからどうする!?

 俺と真古都の仲は悪くない。

寧ろ真古都は俺を信頼してくれているし、

可成、心も許してくれているから、

他の男よりずっと関係は良い筈だ!


問題は俺のことを“いい人”で、“男”として見られて無いことだが…

いや、それはなんとでもなる…

いや、絶対何とかする!


それより厄介なのは…


「おい、今日はお前の番だからな」

「判ってるよ」

「ちゃんと色まで確認しろよ」


真古都のクラスに向かう途中、手前にある水道でバケツに汲んだ水を手に男子が話している。

「なんだこいつら…」

ニヤついてる男共の顔に胸騒ぎを覚える。

バケツを持った男子が、真古都のクラスに入って行くのを見て、俺は不安になり急いだ。


「きゃあっ!」

真古都の声だ!

慌ててドアから中を覗くと、頭から水をかぶった真古都が両腕で胸の辺りを隠して、少し前屈みになっている。


「何やってるんだ!」

俺は思わず大声で怒鳴った。

「やっべぇ!」

男はバケツを放り出し一目散に逃げていった。

廊下から「ピンクだ!俺の勝ち!」と、

笑いながら走り去る男共の声が聞こえた。


「大丈夫か真古都!」

「うん…」

水をかけられ、躰に張り付いたシャツから下着が丸見えだ!

俺は急いで自分の制服を脱いで、彼女にかけてやる。


「ダメだよ、瀬戸くんのシャツが濡れちゃう」

「バカやろう!そんな事言ってる場合か!

こんなのでも少しは隠せるだろ!さっさと体操着に着替えてこい!」


それでも濡れてしまった足元の床を見て、まだ躊躇している。

「風邪ひくだろっ!俺の言うことを訊け真古都!」

その声にやっと彼女も動きだし、体操着を持って着替えに行った。


くそっ!くそっ!くそっ!

女の子にこんな酷いことしやがって!


《わたし、現実に期待はしてないから…》


当然だ…

こんな酷い扱いをされるんだ

男なんて嫌いだろうし

信用できないのも無理はない…


ダメだ…

いくらアイツを好きでも言えない…


伝えたところで、

受け入れてもらえる気が全然しない…


せめて、どうしたらアイツを守ってやれる…?



「おい、霧嶋。最近二年の女の所へ足繁く通ってるそうじゃん」

コイツはいつも僕を見下して揶揄う。

「今度はその女を釣るつもりなのか?色男も大変だな」


下卑た笑いを隠しもしない…

「変なこと言うのやめてくれないかな。僕が女の子を口説くのはこれが初めてだよ!」

僕は、真古都さんを遊び目的のように言われたので、悔しくて反論した。


「へ~、そりゃ大変だ。

顔しか取り柄が無いのに、顔で落とせなきゃ

何で落とすんだ?いきなり襲うのか?

まあ、色んな女と散々してきたんだろうから簡単かもな」

僕は悔しくて教室を飛び出した。


くそっ!

誰も彼も、みんな僕をそんな目で見る…

周りよりちょっと顔が良いだけで

なんでそこまで言われなきゃならないんだ!

もう、うんざりだ!!


僕は、渡り廊下まで来ると、すぐ横にある花壇に向かって、悔しさを拳に込めて叩きつけた。


「あれ、霧嶋くん?何してんのそんな所で」

聞き覚えのある声にドキッとする。

真古都さんの声だ。

「あっ!霧嶋くんケガしてる!」


レンガ造りの花壇へ感情を抑えきれず、何度も叩きつけた拳から血が出ている。

「大丈夫です」

そう言って拳を背中に隠した。


「何があったか知らないけど、ケガはそのままにしちゃダメだよ、ちゃんと保健室行こう」

真古都さんは自分のハンカチで血が出ている拳を巻いてくれた。


真古都さんだけだ!

僕を色眼鏡で見ずに接してくれるの…

思わず力一杯、細い彼女の躰を抱き締めた。


「真古都さんは色々言われてる僕の噂気にならないの?」

気になっていても、聞けなかった事を思いきって訊いてみた。

「だって噂でしょ?本当かどうかは自分で確かめるよ」

真古都さんは当たり前のように言ってくれる。


「真古都さん、ハンカチ汚しちゃったから新しいのプレゼントしますね」

保健室で包帯を巻いてもらった後、血がついて汚れたハンカチを見て言った。

「そんなの気にしないで」

真古都さんは優しく笑ってくれる。


「ねぇ真古都さん…」

片付けている彼女の後ろから、両肩に手を置いて声をかける。

心臓が膨れ上がっているように苦しく、激しく叩く鼓動に声が上手く出せず上ずる。


「ぼ…僕と付き合ってみない?

僕、真古都さんが好きなんだ」

初めての告白だ。

心臓が飛び出そうなほど苦しい。


「えっ?霧嶋くんならもっと可愛い子ができるよ」

なんとなく予想通りの答えだった…


「真古都さんがいいんだ」

「ごめん…

霧嶋くんが悪い訳じゃないの…

ただ、わたしが男の人を信用してないの

わたし自身が好きになってないのに

付き合うのは無責任だし…自信がない」

先ほどの優しい顔からは想像出来ない思いつめた感じの表情だった。


僕はそんな真古都さんを強く抱き締めた。

「良かった!僕のことが嫌いなわけじゃないんだね。それなら絶対、僕のことを好きにさせてみせるよ!」

僕は真古都さんの頬にキスをする。


『僕は…真古都さんさえいてくれたら

他には何もいらない…』

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