第36話 本当の気持ち #1

 あの霧嶋が三ツ木を好き?


霧嶋が俺に宣戦布告をした日から、

俺は自分でも判るくらいおかしい…


何も手につかなかったり…

ちょっとの事にも苛ついたり…


クズの先輩にはあんなに傷ついたんだ…

イケメンの彼氏が出来るなら、

良かったじゃないか。


いつかは

アイツの事だけを思って

大切にするヤツが現れる…


理解わかってる…

でも…

どこかで納得してない自分がいる…

くそっ!なんでなんだ?


俺はずっとこの悶々とした気持ちを抱えていて、

どうにかなりそうだった。


名前を呼びながら、アイツに付いて回る霧嶋にイラつき、彼女にもバカな事を言った…


「おい、三ツ木。お前みたいな女に、あれだけ熱心な男はもう現れないかもしれないぞ。いっそ霧嶋と付き合っちゃえば?」

自分でもバカな事を言ったと後悔した。

そんな事、露程も思って無いのに…


「そんな事、出来る訳無いでしょ!

ちゃんと好きでも無いのに付き合うなんて無責任よ!」

三ツ木は本気で怒ってるが、

俺は心のどこかで少しほっとする。


「前にも言ったように

わたし現実に期待はしてないの。

もしわたしと付き合ってる最中、

他の可愛い女の子に言い寄られたら

その子を選ぶかもしれないじゃない…

そんな不安を抱えながら

男の子と付き合う自信無いから!

人並みの容姿の人には判らないわよ!」


人並みの容姿…

見目を気にしている三ツ木が

自分と他者を別ける線引きラインだ。



「ねぇ真古都さん。

今日画材店行くの付き合ってよ」

どんなに誘っても断られるから、部活で使う画材を一緒に見て欲しいと頼み込んだ。

「えっ?まぁ、それくらいなら…」


『よしっ!』

二人きりの時間ゲットだ!

真古都さんは、隣町にある画材店に僕を連れて行ってくれた。


『今はあの邪魔な先輩はいない。

折角二人きりだし、この後お茶に誘って…

それから…』

なんて考えていたら、

不意に僕の名前を呼ばれた。


「あっ霧嶋くん!久しぶり、急に転校しちゃうんだもん。会えて嬉しい!これからどっか行かない?」

ベタベタと躰を刷り寄せてくる女の子…

前の学校で僕の周りにいた女子の一人だ。

厭な思い出が頭を掠める。


「いい加減にしてくれ!何だよ藪から棒に!」

僕は伸ばされた女の子の手を振り払った。

「霧嶋くん?」

彼女は信じられない顔つきで僕を見てる。


僕は今までの僕じゃない。

全てを諦めて、ただ笑っていた頃の僕とは違う!


「相変わらず無神経な人ですね!

僕たちデート中なんですよ!

見て判らないんですか!」

僕は隣にいた真古都さんを引き寄せ、後ろから抱きしめて言いはなった。


「口説き落としてる最中なんですから

邪魔しないでください!

今日もやっとOKしてもらったのに、

貴女の所為でダメになったら

一族郎党呪い殺しますよ!」

自分でも、何を言ってるか支離滅裂だったけど、どうでも良かった。


「霧嶋くんが?

口説き落とす?

ウソッ…

呪い殺すって、意味判んない…」

「それだけ本気なんです!」

僕は彼女を睨み返した。

もう僕は自分を偽ったりしない…


「ごめんね。

折角、真古都さんが僕の為に時間を作ってくれたのに…」

「大丈夫。少しびっくりしたけど」

真古都さんは笑って許してくれる。

誰だって、図々しく知らない女が割り込んできたら良い気持ちはしない筈なのに…


「お詫びに夕食奢るから食べて帰ろう?帰りは僕が送るから…」

「えっ、いや、そんな…」

何度か断わる真古都さんを強引に誘う。


「何食べようかな」

真古都さんは怒って無い。

「ここのハンバーグ美味しいですよ」

「ホント?じゃあそれにする」

悩んでる真古都さん可愛いかったな。

ハンバーグ好きなのかな?


「今日はありがとう。また買い物付き合ってね」

僕は帰り際彼女の頬にそっとキスをした。


予想外の事は有ったけど、結果的に食事にも誘えたし、次はどうやってデートに誘うかだな…

早く、僕だけの真古都さんにしたい……



俺はいつものように三ツ木と喫茶店にいる。

二人で、夏休みの合宿を決めることになってる。


「ねぇ、知ってる?あの霧嶋くんが口説いてる女の子がいるんだって!どんな子なんだろうね?」

「え~っ!霧嶋くんが口説くぐらいだから凄く可愛い子なんじゃない?」


俺たちの後ろで、女の子同士が霧嶋の噂をしている。

『お前たちの直ぐ傍で、大口開けてホットケーキ食べてるヤツだよ』

俺は心の中で毒吐いた。

「なんか、変な噂がたってて霧嶋くん、イケメンも大変だね」

『いやいや…

お前その当事者だろ…

アイツが本気で口説いてる女って

お前のことだぞ』

相変わらず鈍感なヤツだ…


最近、霧嶋の噂をあちこちで訊くようになった。

「あの霧嶋数祈が口説いてる女がいるって?」

「どうせまた直ぐ棄てるんだろ?」

「それが今回は本気らしいぞ。形振り構わず口説きまくってるらしい」

俺は噂を耳にする度に、心のどこかで焦りを感じていた。


「瀬戸くん、夏の合宿どこにしようか?」

三ツ木がいつもと変わらない笑顔を、俺に向けてくれる。

俺だけに、当たり前に向けられてた笑顔が、

他のヤツに向けられるのは…

嫌だ…


「そういや、お前の理想ってどんなヤツだ?

好きでも無いのに付き合えないって云うぐらいだから、あるんだろ?」

俺は…三ツ木の好きなタイプが気になった。

「あのクズが理想とか言ったら笑うぞ、

言ってみろ」

「そ…それは…」

三ツ木は言葉を選んでる様子だった。


「…わたしのことを必要としてくれて…

他に好きなひとが出来ても、

一生わたしが気づかないよう

嘘をついてくれる人」

浮気される前提って、どう云う理想だよ!


自己評価が低いのは判っていたが、

最近はずっと俺と一緒にいて問題無かったから…

忘れていた!


「自分の理想通りの人とわたしを比べたら

絶対理想の人を取るに決まってるもの…

そんなの…付き合ってる間も

別れてからも知りたくないよ…」 


三ツ木それは違う!

そう言ってやりたいが

言ってもきっと今のコイツは信じない…


「霧嶋くんのことも嫌いな訳じゃないの…

ただ、いつか別れるかもしれないなら、

せめて好きな人と付き合いたいの…

イケメンと付き合いたい訳じゃない」


こんな風に考えている三ツ木が痛々しい…

俺はどうしたら、お前からその不安を取り除いてやれるんだ!?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る