第5話 ストーカー is ヒーロー?
「ちょっと!!」
「何よあれ!!」
残念なイケメン、赤月は桃香の手を握り、ぴったりくっついて離れない。
彼女でもできたのかと、ざわつく校舎。
桃香は知らなかったのだが、赤月の家は桃香の家の隣にある一軒家だった。
元々は赤月の親戚の家だったそうだが、家主が事故で亡くなり赤月の父が相続したためこの春からここで暮らしている。
登校前、朝食の食パンを食べていた桃香はめちゃくちゃ驚いた。
先に出勤しようと外に出た父が、ものすごい勢いで戻って来て、「もう彼氏ができたのか!?」と泣きながら聞いて来たからだ。
何を言ってるのかさっぱりわからなかったが、玄関を見に行った母親が、「あらやだ、イケメン!」と、赤月を家の中に入れたので、そこでやっと理解する。
桃香も、桃香の姉も驚きすぎて牛乳が気管に入って咳が止まらなかった。
(うう……なんかすっごい見られてる)
あの赤月が女の子を連れて歩いているなんて、とてつもなく珍しい光景。
赤月はイケメンだが、重度の中二病。
それも、ものすごい可愛い美少女とか綺麗なお姉さんでもなく、つい先日まで小学生だった新入生。
あれは一体何者だと、学校中の話題になる。
「どうした、桃香。どこか具合が悪いのか?」
「いえ、そういうわけじゃ……」
嫉妬されているのか、それとも好奇の視線か。
よくわからないが注目されていることに桃香は気疲れして、顔色が悪くなっていた。
赤月は桃香を心配して気づかっているが、ずっと手を繋がれていて、授業が開始のチャイムがなるギリギリまで赤月は桃香から離れない。
教師に怒られてやっと自分の教室に戻って行ったが、怒られなかったらそのまま1年生の教室に居座るつもりだったのかもしれないと思うと、ちょっとした恐怖を感じる。
昼休みになるとまた1年生の教室に、「桃香と一緒に給食を食べる」と自分の教室から食器を持ってやって来たし、放課後も桃香の帰りの清掃が終わるまでずっと廊下で仁王立ちして待っている。
「————何これ、ストーカーじゃん」
小学生の頃から仲良しの同級生、
「す、ストーカー?」
「そうじゃない? だって、桃香あのイケメンの先輩と付き合ってるんじゃないんでしょう?」
「そそそそそそれは……そうだけど」
(付き合うだなんてそんな……赤月先輩と私がそんな……恐れ多い)
顔を真っ赤にしながら桃香は否定する。
だが、芽衣は気にせずに続ける。
「それなら、ストーカーよ。いくら顔が良くても、桃香の気持ち無視して、つきまとっちゃいけないのよ? 顔が良くても、ストーカーは犯罪よ!」
「は、犯罪!?」
「きっと帰りもずっとくっついてくるんでしょ? 今日は私と遊ぶ約束なのに、あの先輩もついてくるの? そんなの変じゃない?」
「え、それは、確かにそうね」
今日は前々から芽衣の家でゲームをして遊ぶ約束をしていた。
他に小学校の同級生も二人来る。
このままだと、確実に赤月は芽衣の家までついて来るだろう。
「————私が気を引いてあげるから、そのすきに逃げなよ」
「う……うん」
桃香は赤月のことは嫌いじゃないのだが、四六時中ついて来られるのはさすがにどうかと思った。
芽衣の言った通り、芽衣が赤月に話しかけ、気を引いている間に桃香は一人学校を抜け出した。
校門を出て、家には向かわず、芽衣の家の方へ走る。
ところが、その途中でブラックリベリオンズが桃香の行手を
(う……動けない!?)
昨日と同じ、金縛りのように身動きが取れない桃香は、ブラックリベリオンズに拐われてしまった。
*
「だーっはははは!!!」
どこからどう見ても悪い人っぽい、黒いサングラスにトレンチコートを着たオールバックの男が、桃香を見て高笑いをしている。
高笑いが聞こえて目を覚ました桃香は、ロープで椅子に縛り付けられていた。
(ここ、どこ?)
「だーっはははは!!!」
まるでツッコミ待ちのように高笑いを続ける目の前にいるこの男、ブラックリベリオンズの地球征服作戦課長である。
総帥と同じく人間に擬態しているが、地球外生命体だ。
(へ、変態!? 変なおじさん!?)
桃香はそれを知るよしもなく、変質者に拐われていると思っている。
(どどどど、どうしよう……!!?)
助けを呼ぼうにも、口に粘着テープを貼られているし、叫んでも周りには誰もいなそうな、倉庫のような場所だ。
それに、桃香は変質者について行ってはならないと学校で習ったが、変質者に連れて行かれた場合、どうしたらいいかは習っていなかった。
(こ、この場合、どうしたらいいの? 先生!!)
6年間ずっと担任の先生だった女性教師の凜とした頼り甲斐のある顔を思い出し、涙が浮かぶ。
その時だった————
「見つけたぞ! ブラックリベリオンズ!!」
赤月が桃香を助けに現れる。
左手の包帯が、風に揺れなびいていた————
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