悲壮感。

――と言う『夢』を一瞬、見た。


 その夢は一瞬だったけど、自分が物凄く強い奴になってモンスターに立ち向かい。伝説の勇者『アルス』みたいな勇敢なヒーローになれた。


 だが、結局は『夢』は夢でしかない。現実ではそんな戯言は無意味だ。


 俺は自分の無力さと非力さを思い知った。目の前の二人が死ぬかも知れないと言う瀬戸際で、俺は妄想の世界に逃げ込み現実から目を反らした。そして、気がついたらこの有様だ。


 俺は現実では二人の命を救えなかった。


 それがこの無慈悲な現実なら本当に勇者も神もヒーローもいないんだと思い知らされる。二人は目の前で牛の怪物に斧で斬り殺された。


 そう、俺の目の前で。


 俺はただ何もせずに見ていただけだった。


 自分に『力』があれば、コイツを倒して二人を救えたのに…――。


「くそっ……!」


 牛が二人を殺した隙に、俺は無我夢中で近くの教会へと急いで駆け込んだ。圧倒的チキンの称号を手にするには、まさに自分には相応しかった。『非力』で『無力』でその上チキンだ。俺は勇者アルスの名に相応しくない、最低な男だ。





 俺は一度も振り返らずに前だけを見て走った。過ぎてしまった事を後悔する余裕は、今の俺には無かった――。




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