第117話 幕間 戦乙女と鍵の在り処 前編
影法師のダンジョンの場所は意外なほど簡単に見つかった。
なにせ近付けば感覚で分かるのだ。
何の変哲もない民家の一つが、周囲の家に紛れるようにダンジョンと化していても生憎と私達にはその誤魔化しは通用しない。
(だけど奉納者以外がこれをすぐに見つけるのは難しいかもしれないわね)
東京の国会議事堂のように、傷がないという点以外の外見上の違和感を覚えるところはない。
だからダンジョンの情報や奉納者のような感覚で分かる人物ではないと、そう簡単に目の前のどこにでもありそうな民家がダンジョンだと思うことはないだろう。
(まあ肝心のダンジョンが見つかったのなら他の事は何でもいいか。だとすると残るは鍵の在り処ね)
念のため試してみたが、ダンジョンの鍵がなければ入れないのはこれまでの情報通り間違いないようだった。
エネルギードレインでダンジョンを守っている結界のエネルギーを吸い尽くせないかと思ったが、それも無効化されているのか僅かもエネルギーを吸い取れる気配がない。
つまり私のユニークスキルでもどうしようもない以上は正攻法での侵入をする以外に選択肢はなかった。
(これまでの道中やダンジョンの周囲の反応に妙な点は見当たらない)
異世界ではエナジードレインという呼称だった、私に神から与えられた能力。
この力は初めの内は発動した途端、無差別に周囲から生命力や魔力などの特定のエネルギーを吸い取って自分のものにしていたものだ。
そこに善悪や敵味方の区別などは全くなく、不慣れでコントロールが甘かった頃は敵よりも味方から吸収してしまうことも多かった。
それもあって私は単独行動を基本としており、能力のコントロールが出来るようになってからも結局それは変わらなかった。
何故なら本気でこの能力を発揮する場合、それこそ生半可な味方は足手まといにしかならないからだ。
最悪の場合は敵諸共味方から生命力の全てを吸い取って殺してしまうこともあり得るくらいに。
と言ってもいつまでもその強力な能力に頼ってばかりでコントロールできないでいる訳にもいかなかったので、異世界ではこの力の制御についても色々と学んだものだ。
それもあって今ではちゃんと力のコントロールすることもできるようになっている。
その成果の一つが肉体の至る所から生えさせることが可能な、私にしか見えないエネルギードレインの触手だった。
これは本来なら周囲に無差別に広がるエネルギードレインの力場を制御して、この触手に触れた対象にのみユニークスキルの効果を及ぼすように工夫したものである。
更にこの触手状態なら、エネルギードレインの発動のオンオフも切り替えることが可能となっている。
それはつまりこの触手を気付かれない内に敵に巻きつけた状態で待機しておいて、自分が望んだタイミングでエネルギードレインのスイッチをオンにすることで急にエネルギードレインを仕掛けることも可能な訳だ。
それがどういう結果を齎すのかは、少し前の影法師の戦いの時に明らかになっている。
全ての影法師が同時に生命力と魔力を吸い尽くされたあの時に。
そしてこの触手状態の良いところはそれだけではない。
髪の毛のように薄く伸ばした触手を広範囲に展開することで、その範囲内の探知も可能となるのだ。
(結界が張ってあるような場所があれば展開された触手が弾かれたり、そうじゃなくてもその周囲にどうしても淀みができたりするはず)
結界は便利なものだが万能ではない。
周囲から気付かれないようにするという性質を強引に付与していることで、どうしてもその周辺も力場などに負荷などが発生するのだ。
そしてそういう普通なら分からない影響を、私のユニークスキルは見逃さない。
加えて常に私は蜘蛛の巣のような形で周囲に触手を伸ばしており、ここに来るまでのかなりの範囲の調査も終えている。
だけどそれでも今のところそれらしき反応は感知できないので、結界などで隠している線はなさそうだった。
(ダンジョンの近くに門番もいなかったし、だとすると残る可能性は……おや?)
そこで遂に怪しい反応を見つける。ただし発見したのは結界などではなかった。
「これは魔物じゃなくて人間ね」
エネルギードレインの触手が捕捉した対象。
それは人間だった。
四、五人が影法師のダンジョンがある場所から少し離れたビルの中に隠れているようである。
ただしそれはおかしな話だった。
(その周辺に魔力スポットはないみたいだし、隠れている人間が魔物に襲われないのは変ね。周囲にガーゴイルが飛び回っている状況からして、偶然魔物が近付いていない可能性もあり得ないし)
しかもよくよく観察すれば、ガーゴイルの群れはそのビルを守るように展開されているようにも思える。
だとしたらそのビルの中に何があり、影法師のような姑息な魔物が何を画策するのか。
そしてそこに居る人間がどうして生かされていて何をしているのか、何となくだが分かった気がした。
「裏切り者はどこにでも現れる。異世界でも現実世界でもそこに違いはないようね」
この考察が間違っているかどうか、それは直接確認してみるしかないだろう。
他に怪しいところも見当たらないし、十中八九当たっていると思うが果たしてどうだろうか。
そうして目的のビルに向かっている最中に英雄様から念話が入る。
そしてその内容は驚くべきことに、もうあちらは鍵を手に入れたというものだった。
(こっちもノンビリしてられないわね)
目的地のビルに向かうこちらの行く手を阻むように、群れを成して襲い掛かってくるガーゴイル共。
だがそのどれもが通常種であり、私の敵となるには実力不足にも程がある。
それにエネルギードレインが効き難いとしても、他のやりようは幾らでもあるのだった。
「魔闘気、発動」
振るった槍によって粉々どこから細切れにまで切り刻まれたガーゴイルの肉体が、魔石だけを残して消え去るのは一瞬のことだった。
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