第57話 スキル適性と情報交換

 些か乱暴な方法ではあったかもしれないが、こうでもしないと圧倒的な実力差が分からないようなので仕方がなかったのだ。


 実際、俺と彼らでは圧倒的な実力の差があるという事実を存分に思い知ったのだろう。


 半ば強制だとしても、こちらの話を聞いてくれるようになったようである。


「で、お前らが政府に協力的な覚醒者だって話だったけど、これだけな訳ないよな。他の奴らはどこにいるんだ?」


 よくよく考えれば自衛隊の中に覚醒者がいるはずだ。


 それもオークやゴブリンの掃討作戦をしていた連中の大半はステータスカードを出現させているはずである。


 以前に自衛隊員と遭遇した際にも拾ったステータスカードを預けたこともあるので間違いない。


「自衛隊員の覚醒者については幕僚長などの組織を束ねる人達がその指揮下に置いているようです。私が所属している警察でも似たようなもので、元々何らかの公的な組織に所属していた者はそのままの形で割り振られているみたいですね」


 だからここにいるのはそうでない、一般人でありながら魔物を倒して覚醒者になった奴らとのこと。


 俺を監視していた人も警察所属とのことだから、俺を除けばそれが三人だけということか。


「けっ! 野良の覚醒者は絶対に俺達だけじゃねえ。本当はもっといるはずさ。でもわざわざ危険を冒してまで日本政府に協力することを選ぶ奴が少ねえのと、それ以外は人間を殺すことを何とも思わないような危険人物が多いってだけでな」


 深雪と呼ばれた女性が回復魔法の使い手だったらしく、それによって金髪ヤンキーも普通に話せるまで回復したようでなによりだった。


「ああ、刑務所で事件があったとか、ここに来るまでの間に俺を監視してたそっちの人から色々と事情は聞いてるよ」


 更に現状で強い奴ほど御霊石を悪用しているような奴が多いのだったか。


 それ以外でも人間を殺してグールとなった奴も仕留めたことで覚醒者となった奴もそれなりの数がいるのだろう。


 俺が以前に始末したカスのような奴が。


 それから考えるとわざわざ日本政府に協力しているこの三人は、割と善人の部類に入る人間なのではないだろうか。


 まあ中にはその見た目からは想像できない奴もいるが。


「言っとくが深雪と鹿島のおっさんに戦闘面での活躍を期待すんなよ。こいつらはスキル的にも性格的にも戦えるような奴らじゃねえんだからな」


 どうやら壮年の男性が鹿島のおっさんという人らしい。


 つまり実質的に野良の覚醒者で戦えるのは目の前の金髪ヤンキーだけということか。


「それはそっちの女性を見れば何となく分かる面もあるが、だとしてもこの状況で戦闘系のスキルを取らなかったのか?」


 オークなどの魔物が襲ってくるのだ。

 そんな状況ならまずはそいつらに対抗できる力を求めるのが普通だと思うのだが。


 それともそいつらかが逃げたり隠れたりするスキルの方を選んだのだろうか。


 そう思ったが金髪ヤンキーの続く発言はこちらの予想度はまるで違ったものだった。


「違う。この二人はショップでそういうスキルしか出てこなかったんだ。逆に俺は一部の戦闘系ばかりだったし、どうも幾らポイントがあっても適性が有るスキルしか手に入れられない感じなんだよ」

「マジか……」

「いやいや、何でそんなことも知らないんだよ。そんだけ強いならお前だってスキルをショップで買ってるはずだし、適性のあるスキルしか買えなかったはずだろ」


 生憎と俺も茜も先生もそんなことはなかった。


 それは俺が魔法から索敵系などの多種多様なスキルを獲得していることからも分かる通りである。


 まあ茜などはユニークスキルの関係上、茜だけが買えるスキルやアイテムがあるのだが、それはあくまで例外だろう。


 だとすると俺達三人、つまりは異世界からの帰還者にはそういう制限がないと見るべきか。


(そう言えば俺達三人には最初から帰還者ってジョブが振り分けられてたな)


 以前始末したカスのステータスカードにはジョブの記入はなかったし、奉納者のジョブがあることでダンジョンの場所が分かるという特殊な能力が得られたことから考えると、その効果がこれなのだろうか。


「……俺は割と適性が多かったのかその辺りの選べる範囲はかなり広かったんだよ。だからまさかそういう制限がそこまでキツイ奴がいるとは思ってなかったんだ」

「へー、そいつは羨ましいな。俺なんて買えるのはほとんどステータス上昇系ばかりだったぜ」


 実は全部購入できますという訳にもいかないのでそう誤魔化しておいた。


 そこで保有しているスキルが超聴覚などの感知系とステータス上昇系のスキルだと話しておく。


(あんまり適性が多いのも変みたいだし魔法とかは奥の手として隠しておくか)


 なお、それぞれの適性に関しては深雪という女性が回復系のスキル。


 鹿島という壮年の男性が隠れ身という隠密系のスキル。


 俺を監視していた人は超聴覚などの感知及び索敵系のスキルとなっているらしい。


 確かにこれではステータス上昇スキル以外だと直接的な戦闘はかなりきついかもしれない。


 やれて回復魔法で戦闘する誰かを援護するとかだろうか。


(それにしたって回復役から狙われる可能性を考えたらかなりキツイか)


 その上、MPは中々回復しないのだ。


 これではただ単に覚醒者の数を増やすだけではダンジョン攻略を成功させるのは難しいかもしれない。


 そんな感じで俺の知らないこともまだまだあるようなので色々と話を聞かせてもらう。


 その中で最も興味深かったのは、なんとショップで売れるのは魔石や御霊石だけではないということだった。


 どうもショップは生物以外なら何でも売却可能であり、なんならそこら辺の崩れた建物の瓦礫なども買い取ってくれるらしい。


 ただ流石に魔石や御霊石ほどの換金率ではないようで、大量に売却して数百ポイント稼ぐのがやっとらしい。


(それでもゴミを売ってポイントになるのなら助かるな)


 ここにいるメンバーは御霊石を売却することをよしとせず、魔石以外ではそういう方法で足りないポイントを捻出していたらしい。


「こっちから話せるのはそんなところだな。んじゃあそろそろそっちからも情報を寄こせよ。聞いてばかりって訳でもないんだろ?」

「それもそうだな。それじゃあ全員が気になってるであろう安全地帯についての話からするか」


 そこで俺は突如として現れた巨大な水晶の塔が聖樹というものであり、その周囲では新たなダンジョンが生まれることはないことなどを説明していった。

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