第10話 念話と説明
「どうしてお兄ちゃんはあのバケモノ共のことを知っていたの? そもそもお兄ちゃんがあんなに強いのはなんで? 明らかに人間離れした動きと力だったよね」
「説明するからそう怒るな。ただ普通なら信じられない与太話みたいなことだからな」
「今のこの状況がその与太話みたいなものなんだからなんだって信じられるよ」
果たしてそうだろうか。
まあいつまでも家族には隠していられないとは思っていたので話すとしよう。
ただしその相手は家族である由里だけだ。
そのためのスキルはグール退治をしている内にショップで購入しておいた。
「分かったよ。そうだな、何から話したもんか……」
『由里、この声が聞こえたら腕を組め』
車を走らせながら由里の頭の中に響かせたら、その声にびっくりした様子を見せているので聞こえているのは間違いないようだ。
『もう一度言うぞ。聞こえていたら腕を組め。そして後ろの奴らに聞こえていることを悟られるな』
今度は驚きの表情は隠しきれていないものの黙って腕を組んだから大丈夫だろう。
『今、俺がお前にしているのは念話というものだ。後でこれを使って本当のことはちゃんと説明する。だからこの場では口頭で適当なこと言うから話を合わせてくれ。本当の話は他人に知られるのは不味いんだ。ああ、そっちの返事も頭の中ですればこっちに届くぞ』
『……本当に聞こえてるの? 聞こえてるのなら左手で左耳を触って』
その指示の通り行動すると流石に信じざるを得なくなったようだ。
「事の起こりは偶然だったんだ。俺も職場でゴブリンっていうバケモノに襲われてな。幸いなことにそいつはオークほど強くなかったから俺一人でなんとか倒せたんだが、その時に急に頭の中に声が聞こえたんだ」
そこでステータスやスキルを得たことを説明する。
更に特典ボーナスで現れたバケモノの正体が魔物と呼称される邪神の眷属であることやその存在についての一定の知識を授けられたと嘘を交えて。
「普通なら信じがたいことだったけど実際に手にしたスキルとかは本物だった。現にああして人間離れした力を発揮できてただろう? だから授けられた知識も本物だと信じるしかない。そんな時に世界中で魔物が現れていることを知って家族が避難できているか確認してたらお前からSOSが来たって訳だ」
「……それで急いで助けにきてくれたってことね。それじゃあそのスキルとかは何なの?」
「原理は俺にも分からない。だけどこれがなければ俺達人間は魔物に勝てないのは肌で感じただろう。だったら今は有効活用するしかないさ」
それ以外の詳しいことは俺も分からないと言って誤魔化した。
そこで後ろで聞き耳を立てていた奴らも話が一段落したことを察知して静寂が車の中を包み込む。
『それで本当の話は?』
『長い話になるぞ。まず俺は行方不明の五年くらいの間、異世界に行ってたんだ』
「げほ!」
思わずと言った様子で咽る由里にジト目を向ける。
そこでふと気付いたがあれだけの緊張から解放されたのに何も飲み食いしていないのは辛かったかもしれない。
水は5Pで購入できるがここでそれを浪費するのはもったいない。
「ちょっと待っててくれ。飲み物を確保してくる」
自販機があるところで車を止めると外に出る。
そして容赦なくその自販機を破壊して中身を全てインベントリに収納した。
「全員飲みたい物を選んでくれ」
普通なら暴挙とも思えるその行動に皆が驚いているのは無視して全員にそれぞれ飲み物を行き渡らせる。
(後でスーパーとかに寄り道して食料も確保するか)
そんなことを考えながら再度車を走らせる。
『それで異世界に行ってたってどういうこと?」
『そのままの意味さ。あの飛行機事故で俺は本当なら死んでいるはずだった。だけど幸運なことにそうなる前に異世界に召喚されて、そこで神の願いを叶えれば元の世界に帰らせて貰えるってことになったんだ』
簡単に言えばそういうことになる。
詳細を語ろうと思えば何日でも語れるが今必要なのはそれではないので割愛する。
『その異世界は邪神とその眷属である魔物、あのオークとかみたいな奴らに侵略されててな。神の望みはその邪神の撃退だった。だから俺達は五年の歳月をかけてなんとか邪神を撃退して、少し前に無事に戻って来たって訳だ』
『信じ難いけど嘘じゃないんだよね。でもその魔物が現れたってことは邪神ってのが私達の世界にも侵略をしかけてきたってことなの?』
『その可能性も完全には否定できないけど、よくよく考えると違うと思うんだよな』
『どうして? 自分を撃退した相手に復讐しようとしてるとかありえない話じゃないと思うけど』
『邪神は勇者によって倒されている。実際に邪神と戦った勇者パーティの話だと邪神のコアとなる部分は勇者によって破壊されているらしいんだ』
コアを破壊されたことで邪神は撃退された。
そしてそうなった邪神がもう長くないことは異世界の神が神託によって教えてくれたことだ。
このまま何もなければ徐々に力を失っていって最後には死ぬだろうことも。
その眷属である魔物も邪神が死ねば著しく弱体化するはず。
少なくともこんな事態を引き起こすくらいになるには数百年、下手をすれば数千年の時は必要になるように。
『勇者パーティなんてものもいたんだ。まさかお兄ちゃんもその一員だったりしたとか?』
『いや生憎と俺は戦闘向きのスキルは神から与えられなかったからな。勇者パーティとは別に異世界で街を守ったりしてたよ。そんな俺でも生き残るために魔物とは幾度となく戦ってきたからな。そのおかげもあって色々と場慣れしているって寸法だ』
『あれだけ強くても戦闘向きじゃなかったんだ。だとしたら勇者ってどれだけ強かったのか想像もできない……ってそうだよ! そんなに強い勇者がいるならその人にどうにかして貰えばいいじゃん!』
念話でも声が大きくなるのだなと関係ないことを考えながらそれに対する答えを伝えた。
『残念だけどそれは無理なんだ。俺と違って勇者はこっちに戻らずに異世界に残る選択をしたからな。少なくともこの世界の神が存在していて、異世界の勇者を召喚でもしてくれない限りはたぶん来れない』
『そんな……』
『そう落ち込むな。勇者パーティ全員があっちに残った訳じゃない。中には戻ってきている奴もいるし後でその中の一人とは合流する約束もしてる』
『ええ、そんなすごい人とお兄ちゃんは知り合いだったの!?』
『まあな。あいつらならこの事態でもどうにかしてくれるはずだ』
もっともその内の一人はこんな事態が起こる前では質の悪い酔っ払いでしかなかったことは一生俺の胸に秘めておこう。
希望を抱いているのならその方が精神的にもいいことだろうし。
癒しの力持つ才媛。叡智を得た老人。竜の友となった幼子。
この三人はこちらに戻ってきている。
一度は異世界を滅ぼそうとした邪神すら撃退する功績を残した彼らなのだ。
その力を有効活用すればきっとこの状況もどうにかなると信じたい。
そんな形で念話にも一段落したあたりでデパートを見かけたのでそこにも寄り道することにした。
『適当に食料とか確保してくるけど他に欲しいものはあるか?』
「服が破けちゃったから替えがあると助かるかも」
『分かった。ただ俺のセンスで選ぶからデザインとかは期待するなよ』
「別に動きやすいのでいいよ。こんな状況でファッションにこだわっていられないし」
それなら有難い。俺のファッションに関する知識など五年も前のでしかないからだ。
そうして自分達が最後の最後で少しのミスを犯したことに気付かぬまま食料と衣服の確保を終えるのだった。
保有ポイント184810P
内訳
オーク×4 1200P
装甲車 -100P
念話レベルⅠ -1000P
所有御霊石 221個
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