(26) 知恵の実-3
私は使用した器具類の汚れを丁寧に取り除いてゆき、元々の場所へと一つずつ戻してゆく。後始末と作業部屋の清掃を念入りに行った後、窓を開けて部屋の空気を入れ替える。
一旦役目を終えた私は、時間を持て余すのも勿体無いと思い作業部屋を後にした。何処に素材や原料の採取に向かうか思い巡らせながら、私が居館の廊下を歩き進めていると、後ろから突然の声が掛かる。
「活力ある若者が怠けてるわ。いい、ナツコイ、ああいうのが駄目な大人になるの。覚えておきなさい」
「────お姉ちゃんは朝からずっと怠けてるでしょ」
その双子の小さな魔女達は、私の事などお構いなしに、思い思いの様子でこちらに挨拶してきたのだった。
*
双子の魔女達は昨日とは様相が異なっており、束ねた髪を頭頂部で丸くまとめた髪型となっている。
「今日はまた違った雰囲気ですね、お似合いですよ」
私が彼女達に向けてそう言うと、
「随分と盛るじゃない、────褒めても何も出ないわよ」
「えへへ」
ハツコイは口ではそう言いながらも満足気な顔をしており、ナツコイは照れるようにして笑っている。
私は小休止と思い役目の事はしばし忘れ、雑談に花を咲かす。その内容は、子供の頃の話であったり、厨房で好きな料理の話であったり、ごく普通の、ありふれたものだった。それは他人から見れば些細な事であったが、他愛のない話の積み重ねは、忘れない思い出として胸の内に残ってゆく。────私には、そんな気がした。
私達が雑談に耽る中で、ハツコイは思い立ったように口を開く。
「丁度いいわ、少し付き合いなさい」
「これから素材を採取しに行こうと思っていたんだけれど……」
私が遠回しに拒絶の表情をする中、ハツコイはさも得意そうな顔をして、
「ありがたく思いなさい、私は人の嫌がる事は率先してやれと教えられているの」
「────お姉ちゃん、それそういう意味じゃないと思うよ」
やっぱりとんでもない魔女だった。
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