第19話 ぼっち、鍛えられることになる

 翌日、事務所で私はナルさんと今後のことについて話し合うことにした。

 まず配信活動における交通費を含めた経費はすべて事務所側が負担してくれる。

 これによって作れるものが大幅に増えた。

 今まで高くて手が出せなかった素材も使えるなんて、考えただけでゾクゾクする。


「例えばエミウムなんか熱伝導率が銀以上にいいからうまくいけばフレアサーベル以上の武器が作れますし、日用品に置いても……はっ!?」

「ふふふ、ツクリさんは本当に魔道具作りが好きなんですね」

「は、はい……それしかないというか……」


 いつも喋り終わった後で猛烈な恥ずかしさがやってくるんだ。

 でも私が興奮して早口になってもナルさんは嬉しそうに聞いてくれている。

 コミュ障の扱いに慣れているとしか思えなかった。

 とにかく今までは高くて買えなかったオリハルコニウムなんかも買えるのかな?

 あれは都心ダンジョンの中枢でしか採れないから年々、価値が高まっているんだよね。


「それでぼっちちゃんねるの今後ですが、ツクリさん。少しはトレーニングをしたほうがいいですね」

「ととと、とるぇーにんぐぅーー!?」

「魔道具を軽んじているわけではありません。むしろ魔道具をフルに扱えるようになるためにトレーニングするんです」

「なんとなく、わかる、ような」


 今まで目を背けていたことにナルはあっさりと着目してしまった。

 確かに探索者養成学校に通っていながら、今のままじゃいけないよね。


「でも、私……学校の実技でいつもうまくいかなくて……。たぶん運動とか戦いは向いてないと思います……」

「ツクリさんはセンスありますよ。今までの動画を見て確信しました」

「そそそそんな、こと! あ、あるんですか!」

「ご自分では気づいてないかもしれませんが敵の位置取りや回避など、無意識のうちにこれ以上ない最良の選択をされています。これは勘ですがツクリさんは人目を気にするうちに、どうすれば邪魔にならないかだとかずっと考えてきたのでは?」

「そ、それは……」


 確かに人と関わるのが怖くてずっと避けてきた。

 人の進行方向を考えて邪魔にならないように避けたし、目立たないような位置にいることが多かった。

 でもそれが戦いに活かせるなんて夢にも思わなかったなぁ。


「ヒヲリさんとのコラボでも、彼女の足を引っ張らないように動いていたのは見事でしたよ。実は初のコラボ配信って賛否が分かれたり荒れるんですよ。双方のファンが入り混じっている状態ですからね。あっちが足を引っ張っただの動けていなかっただの。それはもうすごいです。ですがお二人のコラボは大盛況、あれは全配信者が見習うべきだと思いました」

「あ、荒れていたかもしれないんですかぁ……」

「コラボはアンチ製造企画なんて言う人もいますからね」

「製造されてなければいいなぁ……」


 確かにあれから登録者数がすごい増えたし、今もヒヲリさんから来ましたという人がたくさんいる。

 あれはヒヲリさんが心から楽しそうにしていたからだと思うし、そういうのも大切なんじゃないかな。

 私の力のわけない。あれはヒヲリさんにそれだけのポテンシャルがあったからだよ。


「それで話を戻しますね。トレーニングといっても、そうきついものじゃありません。基礎体力の向上はありますが、ツクリさんに合ったメニューをご用意します」

「そ、それって専属の先生がいるんですか……?」

「私、こう見えてもパーソナルトレーナーの資格を持ってるんですよ。それにこの件について、とある方に打診をしたら快く引き受けてくださいました」

「とある方?」

「実はすでにお呼びしているんです。さ、入ってください」


 なんかすっごい嫌な予感しかしないんだけど、また考えすぎかな?

 いやいや、事務所が認めた人なんだから変な人のわけがない。


「では紹介しましょう。こちら、探索者養成学校で教師をされている真桜 雨月さんです」

「よろしくねぇ」

「ふぎゃっぽぉーーーーー!」


 あまりのショックでソファーから転げ落ちちゃった!

 ひ、ひどい! あんまりだ! なんでよりによってこの人が!

 さも当然のような笑顔が怖い!


「そんなに喜ばなくてもいいのに。知り合いでよかったわねぇ、藻野さん」

「こ、この流れって、冗談じゃない、です……?」

「そんなわけないじゃない。もしドッキリだったら全部ぶっ壊して出ていってやるわ」

「ですよねぇ……ハハ……」


 残念、私の配信生活はここで終わった。

 これから魔王先生に容赦なくしごかれて、こうなるんだ。


「オラァ! 立てやぁ!」

「もう、立てません……」

「だらしねぇなぁ! このままモンスターに殺されるくらいなら私が殺してやるよ!」

「ひいぃぴぃーーー!」


 無理無理無理無理! 耐えられるんならぼっちで陰キャなんかやってない!

 なんで事務所に所属してこうなるのぉ!


「……もしかして怖がらせちゃったかな。ごめんね、実は藻野さんの実技の様子を担当の先生から聞いたの」

「へ……?」

「藻野さん、いいものを持ってるわ。でも肝心の教育指導方針が藻野さんに合ってない。だから私が新しくプログラムを組むから安心して」

「い、痛くしないですか?」

「優しくするわ」


 魔王先生に頭を撫でられて、ふわりとした感覚を覚えた。

 なんだかわからないけど、この人なら安心できるような。

 油断はできないけど、ついていってもいいかなと思えた。


「じゃ、じゃあ、先生……よろしく、お願いします」

「えぇ、腕が鳴るわ」

「今、指ポキ、しました?」


 気のせい、気のせい、気のせい。

 今回、こういうことになったおかげで新しく作れる魔道具の幅がグッと広がった。

 次に作るのは皆の意見を取り入れたあれにしようと思う。

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