第6話 ぼっち、ゴブリンを消滅させる

 近所にあるここはゴブリンダンジョン。魔物の中で最弱に近いゴブリンというモンスターがいる。

 モンスターは弱いけど、手に入る資源の価値が低いから中級のベテラン探索者には人気がない。

 全部で確か三層だったかな?

 構造も複雑じゃないから、私みたいな初心者にはもってこいのダンジョンのはず。


「きょ、今日はここで試運転をしたいと思います」


『なにここ?』

『検索したけど初心者ダンジョンとか呼ばれてる場所だな』

『S級はいないの?』


 う、微妙な反応だよ。

 だってしょうがないよ。私みたいな運動神経がゼロな底辺探索者がいけるダンジョンなんて限られている。

 深淵の追跡者みたいなのは二度とごめんだよ。あんなのまぐれだから。


「進みます……」


『ホラー配信ばりの歩行速度w』

『震えてる?』

『深淵の追跡者を消し飛ばしてんのになんでゴブリンにびびるw』

『抜き足差し足ぼっちちゃんかわいすぎて爆発しそう』


 な、なにが爆発するのかな?

 おそるおそる歩いて進むとゴブリン達がいた。

 まだこっちに気づいてないね。よし。慎重に――


――パキッ!


「あっ!」


『あっ』

『古典的すぎるでしょw』

『見つかったか』


 なんでこんなところに小枝があるの!

 ゴブリン達が一斉にこっちを見た!

 待って心の準備が!


「ギギギーーーー!」

「ギシャーーー!」

「ひうぁあぁーーーー!」


『ゴブリンの声と共鳴してるw』

『なんで逃げるwwww』


 まずいまずいまずい私は実技とか本当にダメでゴブリンならなんとかなると思ったけど!


「い、いきますっ! いきまぁーーーす!」


 フレアボウガンを連射するとそれぞれゴブリンの肩と脚に命中した。

 もう一匹に至ってはかすめた程度でつまり外してるぅ!

 でも次の瞬間、肩を撃ち抜かれたゴブリンが炎に包まれて業火みたいなのが立ち昇った。

 足を撃ち抜かれたゴブリンは足から炎に包まれるように。

 肩をかすめたゴブリンすら同じだった。あれ?


「ぐぎぇぇーーーーー!」

「ギギアァ!」

「ギギギギィ!」


 更に追い打ちをかけるように雷がまとわりついてゴブリン達は跡形もなく消えちゃった。

 うーん? これは?


「こ、こんなに威力が、あったんですね」


『追加効果?』

『追加効果ってレベルじゃねーぞ』

『かすっただけで致命傷じゃないかw』

『ゴブリン追悼』

『あったんですねじゃないからw自分で作っておいてさw』

『しかも一瞬で炎の矢が自動装填されてるw』


 確かにフレアバズーカをコンパクトサイズにしたものだけど、これは私も聞いてない!

 下手したらフレアバズーカ以上の武器ができちゃった!?


「あの、というわけで、試運転、お、終わりです」


『え? 最深層にいくんじゃ?』

『フロアボスまでいこうぜ』

『ダンジョンボスいけるだろw』

『進んでほしい』


 え? あの? なんかすごい期待されてる?

 コメント欄が最深層コールで溢れかえってる!

 私、まだ学生なんだよ!?

 あの女子高生探索者ヒヲリさんじゃあるまいし無理無理無理!


『切音の武士道チャンネル:驚きましたね。引き続き期待しています』

『切音もこう言ってる』

『行こうぜ?』

『いやマジで最終兵器じゃねーか』

『最終兵器ぼっち』


 切音さんのコメントからただならぬ圧を感じるような!?

 いや、気のせいだろうけど。こんなの社交辞令に決まってるよ。

 でも、切音さんにそう言われたら。ね。


「じゃ、じゃあいきますっ!」


『きたこれ!』

『ゴーーー!』

『期待!』


 皆、どうして過激なのが好きかなぁ。

 元はと言えば私のせいなんだろうけど。

 仕方ないか。先に進もう。

 歩けばあっという間に次の階層に着いて、それからもゴブリン達は襲ってきた。


「ひいぃぃーーーーーー!」

「ギギャァアァッ!」

「グゲェェッ!」


 焦ってデタラメに連射するけど生きた心地がしない。

 私、よく当てられてるなぁ。あれ? 私って実は強い?

 相手がゴブリンとはいえ、自分でもここまでやれるとは思ってなかった。

 そう思うとなんだか自信が湧いてきた。


「こ、このままフロアボスのところにいきます」


『いけぇーー!』

『投げ銭したいけど収益化してないんだったな』

『ここのフロアボスってなに?』


 収益化? そういえば申請できる条件を満たしてるのかな?

 確かチャンネル登録者数が1000人以上、動画の再生時間が4000時間以上。

 それと違反行為をしていない、だっけ。

 登録者数はクリアしてるけど再生時間がなぁ。

 とか考えていたらいよいよフロアボスだ。

 ダンジョンには格階層ごとにフロアボスがいる。もちろん強敵だけど、討伐できればいい報酬がもらえる。

 私の場合、素材が嬉しいかな?

 いざ、勝負! 今の私ならいける!


「グガルルルガガァァァ……!」

「あ、間違えました……」


 無数の牙が生えて両手にサーベルを持った大きなゴブリンが待ち構えていた。

 うん、人違いだ。ここは私がくるべきところじゃなかったぎゃあぁあぁーーー!

 くるぅーーーー!


「無理無理むぅぅりぃーーーー!」

「グガルガルギギギガルシャバラギャアァーーーーー!」

「怖いよぉーーー!」


『草』

『クレイジーゴブリンじゃん。C級だったかな?』

『意外にやべぇのがいたなw』

『撃て撃てーー!』


 ほんとにクレイジー!

 う、撃つ撃つ撃つ撃てば終わってくれるたぶんきっと絶対に!


「いっきまぁーーーーすっ!」

「ギギガルガバクソザコギガギアァギルァーーーー!」


 サーベルが振り下ろされる前にフレアボウガンを撃った!

 胴体のど真ん中に命中したフレアボウガンの矢が、なんと。

 胴体を貫通して穴を空けた。

 というか今、クソザコって言われたような?


「ギ……ファッキングギアァァーーーーー!」


『めっちゃ燃えてるw』

『きたねぇ花火だ』

『燃え尽きたか……』

『もう蒸発やん』 


 あの大きなクレイジーゴブリンが跡形もなく消えた。

 ファッキンって言われた気がするけど気のせいだよね。


「た、たからばこ、が……」


『ご褒美やな』

『さぁて何が出てくるか?』

『大したものは入ってないと予想』


 スゥッと現れたのは大きな宝箱。

 フロアボスを倒すとなぜかこの宝箱が出現するみたい。

 開けてみると入っていたのはグラシオル鉱石だった。

 こ、これは、きたよ。きたきた!


「グラシオル鉱石! 武器の素材にうってつけだぁ! 見て見て! グラシオル鉱石だよぉー!」


『めちゃくちゃはしゃいでてかわいい』

『鉱石でテンション爆上がり女子w』

『そんなんやからぼっちなんやぞ! かわいい!』

『グラシオル鉱石なら十分当たりやな』


 ふと冷静にコメントを見ると急に恥ずかしくなってきた。

 そ、そうだよね。こんなので喜ぶ女の子とかいないよね。

 でもこれがあればいろんな魔道具が作れるんだけどな。

 今まではおこづかいの範囲でやってたけど、これならダンジョン探索をすればもっと――


「うわあぁぁーーーー!」

「え、な、なに?」


 遠くから悲鳴が聴こえたような?

 もしかして次の階層から?

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