第4話 ぼっち、現実を認識する

「んむ……?」


 起きると朝になっていた。寝ぼけた頭で段々と昨日のことを思い出す。

 もしかしたら夢だったんじゃないかと思ったけど絶対に現実だと思う。

 思い出したらまた心臓がバクバクしてきた。

 今日が休日でよかったなぁ。こんなメンタルで学校なんか行けない。


「どうなってるんだろぉ……」


 最後に見た時は通知が止まらん状態になってたっけ。

 どうしよう? このまま放置しようかな?

 うん、それがいい。全部夢だったと思えばそれで解決なんだ。


「んー……見ない、見ない」


 見ないよ? 絶対に見ないからね?

 そう思いつつスマホを操作して動画サイトのユーザページを開く。

 見ない見ない。ちらっ。


「通知が2542ってなにぃぃ~~~~~!」


 また意識が飛びそうになった。

 なんで、なんでなのぉ?

 お水を飲んで落ち着こう。ぬるっ!


「ハァー、ハァー……」


 こういう時、誰かに聞けたらいいんだけどそんな相手がいない。

 登録してる電話番号なんてお母さんとお父さんだけだもん。

 もういいや。今日は休日だし、こんなの気にしないで猫動画を見よう。

 猫はいいよ。ねこねこねーこ。猫は宇宙の真理。え? 待って。

 よく見たらこのトレンドに上がってる動画、私が映ってない?

 

【切音動画切り抜き】バズーカでS級ネームドを粉砕する謎の少女www【公式】


「ほんぎゃらばっぱぁ~~~~!」


 いったぁい! 驚きすぎてベッドから転げ落ちちゃった!

 頭をさすりながらもう一度、切り抜き動画を見る。

 サムネイルに写っているのは目線が入ってるけど私だ。再生数が70万回を超えている。

 もうダメ! 見てられない!

 SNSのボソッと呟くボソッターで気を紛らわせよう。

 フォロワーなんてほとんどいないし、こっちなら――通知数が見たことない暗号みたいになってる。

 通知って0か1で表示されるんじゃなかったかな? 色々と限界だった。

 

 「おかあさぁーーーーん!」


 一階に下りて朝食を用意しているお母さんに相談したら――


「あら、よかったじゃない。いっそダンジョン配信者としてデビューしたら? お父さんにはまだ言ってないの?」

「言うわけないよぉ! もう会社いっちゃった?」

「今日は朝から会議があるからって早めに出社したわ。会社で噂になってるかもね」

「どぉしよぉーー!」

「どれどれ」

「勝手にタップしないでぇーーーー!」


 切り抜き動画が勝手に再生されてしまった。短い動画だけど紛れもなくあの時の場面だ。

 バズーカでネームドモンスターを倒した後、私が切音さんから逃げていく。


「ぷっ! くひひひひ……!」

「笑わないでよぉ!」

「ユー! デビューしちゃいなよぉ! コメント欄が盛況ねぇ! 『この子やばすぎw』『何者だよ!』『ほい、ぼっちの魔道具製作チャンネル』……」

「読まないでぇーー! ていうか特定されてるぁーーー!」


 もう限界だった。ふらふらと椅子に座り込んだ後、テーブルに突っ伏す。


「それっ!」

「また勝手にタップしたでしょ!?」

「すごいわねぇ! 登録者数10万2344人だって!」

「あっふ……」


 これは現実なの? 夢だよね?

 S級を一撃で倒せるなんて知らなかったし、わざと邪魔したわけじゃないもん。

 もうやだ、これ以上いじめないで。

 これなら過疎っていたほうがマシだった。

 どうせコメント欄は叩きで埋まってるんだ。死ねブスとか吊れとか書かれてる。そうに違いない。


「コメントですっごい褒められてるわよ」

「ウソだよ……」

「読むわね。『高校生くらい? その歳で天才では?』『他の魔道具も見たい!』『よく見たら小動物っぽいかわいさがある』『よく見なくてもかわいいだろ!』だって」

「えぇ……?」


 テーブルに突っ伏す私にお母さんがスマホを突きつけてきた。

 そーっと見ると、そこには応援のコメントがたくさんある。

 あれ? なんでこんなに優しいの?

 私、切音さんの配信を邪魔しちゃったんだよ?


――切音ちゃんを助けてくれてありがとう!

――なんでこのチャンネルが伸びてないのかわからない

――このチャンネルのおかげで魔道具製作に興味を持ちました!


「あ、あれ? なんか、胸がポカポカしてきた……」


 目頭が熱くなった。その応援コメントは確実に私に向けられている。

 それとも釣り? どこかの掲示板で晒されて反応を見て楽しんでいる?

 でもそうだったとしても、何かこみ上げてくるものがあった。


「あんたのポテンシャルならいつかこうなるってわかってたわ。認められるって気持ちいいでしょ」

「あ、う……私、ほ、ほめらるてるぅ……」

「噛んでるわよ」

「ううぅぅ~~~!」


 涙が止まらなかった。

 顔も名前も知らない人達が、こんな陰キャぼっちを応援してくれている。

 かわいいだなんてお世辞を言ってくれている。


「あんたはもう少し自信を持ちなさい」

「うん……」


 不登校にこそならなかったものの、学校で馴染めずにいた私をお母さんはずっと心配してくれた。

 ずっと心配かけちゃったな。私、自信を持ちたい。

 うん。持ちたい、だ。正直に言うとまだ実感が湧かないんだもの。

 あれだけ人気が出たらなぁとか思っていたのに、いざとなったらこれだよ。


「わ、私、配信を続けるね」

「よしよし。何かに打ち込む人間はそれだけで立派よ」


 まだ怖いけど、がんばろう。

 できれば切音さんに謝りたいけど、私から打診するなんて恐れ多い。

 それでなくても邪魔されたことを怒ってるかもしれないし。


「よし! 今夜はタコパよ!」

「タコパァ~!」

「お父さんの会社で作ったタコ焼き用の最新型魔道具よ!」

「まどーぐ……!」


 いけない、いけない。分解したい衝動に駆られちゃった。

 というわけで私は魔道具製作動画を続けよう。

 私はそれしかできないんだから。

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