第29話 妹の帰還の知らせを楽しむ

 他言無用の話し合いが終わり、ヴァルレットが音を遮断する魔術具をしまい、後ろに控えていたマイクロフトに声をかけ渡す。


 「今日の話し合いで決まった事は必要次第側近に伝えるように。

 ではこれで…」


 ヴァルレットが話し合いを終わらせようと切り出した時、何処かから白い鳥がヴァルレットの前に降り立った。

 この部屋は窓も閉まっているのにどこから来たのだろうか?


 「む?中央からのか。

 。」


 ヴァルレットは目の前に降り立った白い鳥を一瞥し、装飾のついたいかにも魔法の杖のような金色の棒を取り出し鳥の頭にコツンと当てる。すると、鳥の体が濃いめの緑色で淡い光を放ち1枚の紙へと姿を変える。

 周りにいるアリシティアやアルフレッド、その側近たちも当たり前かのようにその光景を見ているが、私は全然ついて行けてない。

 驚きに固まっている私を置いてヴァルレットは目の前に現れた紙を手に取り、目を通す。


 「中央からの連絡で、今の各国の情勢を考えて留学をしている子を明日国に返すようだ。」


 その言葉にいち早く反応したのはアルフレッドだった。


 「では、リリアーナが帰ってくるということですか?」


 「ああ。そうなるな。」


 リリアーナ。アルフレッドの妹で私の義理の妹になる子だよね?どこかに行ってるとは聞いていたけど留学か…私もエルメイア以外の国に行ってみたいな~

 まぁこの国のこともろくにわかってないけど。


 「リリアーナの部屋は整っているのかしら?」


 「恙無く。」


 私が考えているうちにアリシティアやリザを中心に話がまとまっていく。


 「明日の朝に帰ってくるようなので準備をしておくように。

 それから、留学に出ている子がいる家には文官から連絡を入れておくように。」


 そう言うとヴァルレットは先程の杖を紙の上で軽く振り、最後にトンと叩くと『ボーテタォベ』と唱える。すると、紙ははじめにこの部屋に入って来た時と同じように白い鳥になる。それを確認したヴァルレットが杖を横に振るとその鳥は飛び立ち、壁を貫通していった。


 私が呆然とその光景を眺めていると、ヴァルレットから解散の声がかかり、皆が席を立っていく。私も後ろに立っていたリジに声をかけられ逃げるように自室へ帰った。




 「レン様、どうされたのですか?話し合いの途中からずっと固まっておられましたが?」


 部屋に戻った途端リジが心配したように問いかけてきた。

 私はドキドキとする胸を落ち着かせながら椅子に座り質問する。


 「その…さっき飛んできた鳥は何だったんですか?

 ボー何とか…みたいな。」


 リジは私の質問にレン様の世界には無かったのですねと呟くと説明をしてくれる。


 「ボーテタォベは連絡のために貴族の間で使われる魔術具です。

 私は持っていないのですが、魔紙と魔石を合成し、風属性を付与することにより作る事ができるようです。」


 「壁を通り抜けてたけど…」


 「魔術具ですから。」


 魔術具だからで押し切ろうとしてる?

 まあこれ以上問い詰めても答えは帰ってこないだろうし納得したことにしよう。


 「そう言えばレン様。先程の話し合いで決定したことの中で私共に伝えねばならないことはありますか?」


 伝えること…

 そう言えば鳥が入ってくる前にヴァルレットがそのようなことを行っていた気がする。必要次第伝えろ~って。

 リジは私が全属性だってこと知ってるから伝えておいたほうがいいよね?


 「魔術具の中で話したことなんだけど私が扱える魔法の属性を風だけって事にするんだって。理由は…」


 私が続きを話そうとするのをリジは首を振って制する。


 「それ以上は伝えて頂かなくて大丈夫です。防音の魔術具の中で話したことですから私達のようなものには決定事項だけを伝えればよいのですよ。」


 そういうものなのか…?

 私、何だか今日は話を飲み込んでばっかりな気がする…

 と思いつつ私は縦に首を振る。


 「では、そろそろお休みにいたしましょうか。私は…」


 「そうだね。今日もありがとうリジ。

 また明日。」


 私が笑いかけるとリジは寂しそうにこちらを見つめ返事を返す。


 「…はい。では、失礼いたします。」


 最近いつも部屋で分かれるときに寂しそうにしてるよね…私と離れるのが悲しいのかな?なーんてね。

 私は部屋に付いているお風呂に入り、借り物の寝巻きを着る。


 明日は義妹に会えるのか…フフン楽しみだなぁ~実はずっと妹が欲しかったんだよね。


 私は躍る気持ちで布団に潜ったが、すぐに眠れるはずもなく、まるで遠足の前の日のようだなと思いながらしばらく立った後眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る