第8話 身支度を楽しむ

 「では、そろそろ冒険者ギルドへ向かうか。」


 え?

 もしかして王様も一緒に行ったりしないよね?


 「あら、貴方は城でお仕事ですよ?」


 あっ…そうだよね?来ないよね?


 「ですから、私が向かいます。」


 いや、そういう話じゃないでしょ!


 「いえ、母上にもしものことがあればこの国に混乱が起こってしまいます。

 ここは私が。」


 私の目の前で家族会議が開かれている…


 「私は別に一人でもいいですよ…?」


 『それはダメッッッ!』


 おお~見事に被った。

 ってこんな事考えてる暇はない。


 冒険者登録がまた明日に引き伸ばされてしまう。


 どうしよう…

 と、私がオロオロしていると、後ろに控えていたモノクルの宰相さんが、口を開いた。


 「失礼します。少しよろしいですか?」


 家族会議を開いていた三人が驚いたように一斉に宰相。マイクロフトさんの方へと振り返る。


 「ああ、構わん。どうした?」


 「では、失礼します。

 まず、国王様。

 まだ仕事が残っているので、外に出ることはよろしくないかと。」


 「つまらないの~マイクロフトは。

 まあ、お前が言うならしょうがないの~」


 ……王様のこんなに情けない姿は見たくなかったかも…

 でも、正直私の中の株は上がったよ…

 お爺ちゃんみたい…

 笑っちゃダメッ……


 私が必死に笑いをこらえる中マイクロフトはなおも話を続ける。


 「それから、アルフレッド様は次期国王として国王様の仕事を手伝ってもらいます。

 正直手伝って下さらないと仕事が終わりません。

 最近は問題が多くて…」


 「…そうだね。

 残念だけどそうすることにするよ。」


 問題?

 何か大変なことがあったのかな?


 「そして奥様は……


 とにかく、行ってはなりません。

 王族が街中をウロウロすることなどいけないことです。

 もし、皆様方に何かあったらこの国はどうなるのですか!」


 「もう。冗談よ、冗談。

 自室で大人しくしているわ。」


 あっ…押し切った。


 凄いな~マイクロフトさん。

 王族に対しての扱いに慣れてる。


 「では、誰がレンと一緒に行くんだい?

 まさか、一人で行かせないよね?」


 「それは、手が空いているメイドに任せればよいのではないですか?」


 間髪を入れずにマイクロフトが返事をする。


 「冒険者ギルドへ向かうだけです。

 そこまでご心配なさることではありません。

 それに、今回はギルド長に話を通しておりますので、皆とまでは言いませんがある程度の人払いはされているでしょう。」


 「ギルド長か…いや。何でもない。

 少しおかしいやつだが信頼はできる。」


 おかしい?

 王様から見ておかしいってどんな?


 「はい。では、"リジ"に同行を頼みましょう。

 レン様は自室に戻り、外出の準備をしてください。

 その間、馬車の準備をこちらでいたします。」


 お…おお。

 流石プロ。仕事が早い。


 「じゃあ、私がレンを部屋まで送ろう。

 朝の話の続きもしたいしね。」 


 向かい合っているアルフレッドと目が合う。


 これは…ヤバいかもしれない。


 「いえ!大丈夫です!

 流石に自分の部屋の場所くらい覚えましたよ。

 では、私はこれで。」


 走らないように。でも早く。

 私は部屋の中から去った。



 自室へ戻り、既に待っていたメイドに身支度をされたあと、私は城の門へと向かった。


 大きな門の前に立つと、それと同時に門が開く。


 目の前には城の庭園が広がっている。

 その中に、これから私が乗ると思われる馬車があった。

 そこには、一人のメイドとアルフレッドがいる。


 「レン。ここに居るのが一緒にギルドに同行するリジだ。」


 「初めまして。レン様。

 これから同行させていただくリジと申します。」


 「よろしくお願いします。」


 軽く挨拶を交わし、リジに促され馬車に乗る。


 「じゃあ…レン。

 私はここまでだから…」


 「はい!

 行ってきます。」


 「では。ギルドへ向かいましょう。」


 リジが合図をするとともに馬車が動き出す。


 これから、冒険者ギルドへ行くのか…


 そう思うと改めて異世界に来たことが感じられた。

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