第23話 唯人さん わんわんメイドですよ♡わんわんっ♡
「ゲーム部……ゲーム部入りませんかぁ……可愛い女の子いっぱいいますよぉ……」
精一杯の猫撫で声で、廊下を歩く男子生徒を呼び止める。
俺は今、おきつねメイドとして絶賛勧誘活動中だ。
「唯人、それじゃあキャバクラの勧誘だよ! もっとゲーム部っぽく、それでいて媚びる感じにしないと!」
「無理言うなよ……これでも一生懸命やってんだよ……」
「もう……唯人はヘタレだなぁ〜。真咲ちゃんを見習いなよ」
日向が指差す先では、ちょうど真咲が呼び込みをしているところだった。
「げーむぶぅぅぅ……ゲーム部にぃぃ入ってくれませんかぁぁあ……今ならなんとエイムリングが一つもらえますよぉぉおお」
あはれ真咲。
垂れ耳バニーメイドになってしまうとは……可哀想に。
真咲の着ているメイド服はなんと上下分離セパレートタイプ。
上はヘソ丸出し、肩丸出しで胸元はガバガバの不安が尽きないデザインだし、下に関してもフリルマシマシの超ミニスカートで、少しでも屈めばパンツが見えてしまいそうだ。
真咲の貧相な体つきも相まって、非常に危険な雰囲気が漂っている。
しかも本人は緊張しているのか、顔を真っ赤に染め上げていて、それがまたなんとも言えない背徳感を醸し出していた。
正直言ってめちゃくちゃエロい。
あの真咲が今はとてつもなくエロい。
いつもの真咲がウサ耳をつけても違和感しかないのに、今の真咲は耳の先から尻尾の付け根まで全てが完全調和していて、まるで本物の兎のようだ。
「おい、あれ大丈夫なのか……。真咲の精神的にも……学校の校則的にも」
しかし、部長としては彼女の身を案じるあまり気が気でないというのが本音だ。
スカートの裾を握りしめ、涙目になりながらも羞恥に耐えるその姿は実に健気で可愛らしいのだが、本当にあの服装は不安が過ぎる。
少し歩いただけでもポロポロと色んなものがこぼれ出てしまいそうで、もはやハラハラドキドキといったレベルじゃない。
「大丈夫でしょ。うちの学校はいろいろと緩いし」
「校則は大丈夫でも真咲の精神面が心配なんだよ……」
しばらく声掛けを続けていると、彼女の健気な姿に心を打たれたのか、真咲の周りには大きな人だかりができていた。
もちろんほとんど男だ。
中には頰を赤らめ、目を血走らせている者や、息を荒げている者、あまりの破壊力に直視できないとばかりに両手で顔を覆っている者もいる。
『あの子かわいいよな』
『うん、すげーかわいい』
『胸ちっちゃいけどそこがいい』
『ちょっと恥ずかしそうなのがいいよね』
『誰か、あのメイド服ずらしてこいよ』
「ふえぇ……あ、あんまり見ないでくださいぃ……」
口々に感想を言い合うギャラリーに気圧されて、徐々に声が小さくなっていく真咲。
このままでは間違いなく精神崩壊してしまうだろう。
真咲の叡智なバニーメイドに比べれば俺のおキツネメイドはまだマシ。
ここは俺がなんとかしなければなるまい。
「ゲーム部! ゲーム部に興味ありませんか! 初心者歓迎! 一緒に楽しく遊びましょう!」
声を張り上げると、ようやく俺の存在に気がついたようで、生徒達が一斉にこちらを向く。
どうやら真咲への視線を一部奪えたようだ。
「君、可愛いね。名前はなんていうのかな?」
一人の男が俺に声をかけてきた。
金髪ピアス付き。チャラそうなやつだ。
イケメンでそこそこモテそうだし、遊んでそうだなこの人。
どうしたものか……。
まさか俺、女だと勘違いされている?
いや、だとしたら作戦成功なわけで嬉しい限りなのだが……なんだか複雑な気分だ。
まあ、逃すわけにもいかないしとりあえず適当に答えておくか。
日向に言われた通り、媚びるように……上目遣いで相手の目を見つめながら……。
「えっとぉ……名前はぁ……星野♡っていいまぁす♡」
めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど!?
やばい、なんか泣きたくなってきたぞ……。
てか、この人マジで気づいてないの?
我ながら酷い出来だと思うんだけど……。
「へぇ〜。可愛い名前だね。よかったら僕とお茶しない?」
「お茶はちょっと……。ゲーム部に入ってくれたら、一緒にゲームが……ひゃん!」
不意にお尻を撫でられた感触があり、思わず変な声が出てしまった。
尻尾の付け根を見るとそこには男の手が……。
コイツ……セクハラしてやがる……男の俺に……。
恥ずかしさやら怒りやら恐怖心やらで内心パニックになりつつも表面上はあくまで冷静を装っていると、男はさらに大胆に攻めてきた。
今度は尻だけでなく太ももや背中までもいやらしい手つきで撫でられ、鳥肌が立ちまくる。
こいつホモかよ! まじで勘弁してくれ!
「きゃんっ♡ あ、あのぉ、やめてくれませんかぁ♡」
こいつマジで気持ち悪いなと思いながらも、あくまで媚びる姿勢は崩さない。
こうでもしないとこのゲキキモ男が真咲の方に行ってしまうかもしれないからだ。
それだけは絶対に避けなければならない。
「もしかして、照れてるのかい? 可愛いなぁ」
そう囁かれた瞬間、全身に悪寒が走る。
ダメだ。やっぱ、耐えられない! 逃げよう!
そう思って身を翻そうとしたそのとき、背後からとてつもない殺気を感じたかと思うと、目の前の男の姿が尻餅をついたまま固まってしまった。
何事かと思い、恐る恐る振り返ると……
「お兄さん♡ ゲーム部はお触り禁止ですよ♡ もしこれ以上続けられるようなら、内臓引き摺り出して、ぐちゃぐちゃにした後、豚さんに餌として与えちゃいますからね♡ わんわんっ♡」
笑顔で包丁片手に男を威嚇する胡狼さんの姿があった……。
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