第3話

その日、貴仁と純礼は夜遅くまで開発に没頭していた。

プロジェクトの進捗が順調であったが、疲れがたまっていた二人は、コンビニまで晩御飯を買いに行くことにした。

夜の街は静かで、風が心地よく感じられた。彼らは少しリラックスする時間を楽しんでいた。


コンビニに着くと、貴仁はおにぎりとカップラーメンを、純礼はサンドイッチとお茶を手に取り、レジに向かった。

並んでいる間、二人はくだらない冗談を言い合って笑いながら待っていた。


そんな時、レジの横で無言で立っている少女に目が留まった。

少女は、なぜか泣きそうな顔をしていた。



「大丈夫? 何か困ってることがあるの?」

純礼は気になって少女に話しかける。


ありさは最初、何も言わずにただ目を逸らしていた。

しかし、純礼は根気強く話しかけ続けた。


やがて、ありさは涙をこらえながら話し始めた。

「お父さんが事故で大けがをして、助けてあげたいんだけど…どうしたらいいかわからない」



事情を聴いた貴仁と純礼は、スラム街へ向かうことを決めた。

最初は電車で向かおうと考えたが、ありさはT-RFIDタグを持っていないことが判明した。

これは公共交通機関に乗るために必要な電子チケットの役割も果たす、彼女が持っていないため、電車には乗れない。

結局、彼らは歩いてスラム街に向かうことにする。


夜の空は、星が輝く暗い闇に包まれていた。街灯の光が不規則に道を照らし、時折足元が見えづらくなることもあった。

貴仁、純礼、そしてありさは、夜の静けさに包まれながら、一歩一歩確実に距離を進めていった。


次第に彼らが歩む道は、整備された道路から未舗装の路地へと変わっていく。

建物もだんだんと古びて見えるようになり、壁には落書きが多く見られるようになった。

周囲の人々の表情も暗く、生活の厳しさが感じられた。

貴仁と純礼は、自分たちのいる世界との違いに怯えながら、黙々とスラム街を目指す。


貴仁は父が開発したT-RFIDシステムが、現在のような社会の格差を生み出す一因となっていることのではないかと考える。

彼は父が開発した技術がもともとは人々の生活を豊かにするために開発されたものである、その一方で、技術が悪用されている現実を目の当たりにすると、責任を感じずにはいられなかった。


T-RFIDシステムに携わってた頃、父が荒れていたのを覚えている。

「このシステムは人々を豊かにするためのものだ!」

その言葉は、幼い貴仁には理解できないものだった。

今、その言葉が重くのしかかっている。

そのひずみが今、目の前にあるのだろう、


途中、彼らは路上で寝ているホームレスの人々や、明らかに栄養状態が良くない子どもたちを見かけた。また、酒に酔った大人たちが大声で口論している姿も目にした。そんな光景に心が痛む思いで目を背けるしかなかった。

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