第41話 番外編2 転生前夜

 今年も我が輩の神殿に豪華な供物が届けられた。 


 届け主の名は『ルネ・ルナール』


 昔、我が輩の神殿にふらりと現れた孤児だ。


 その後、ルナール侯爵家の養女となり、今は王太子妃となった娘の名である。


 お供え物は年々豪華になる。

 また、そこから溢れる信仰心は濃くなり、我が輩に力を与える。


<あの、小汚い娘が王太子妃とはなーー>


 我が輩は思い出し目を細めた。


◆◆◆◆


 ルネが我が輩の神殿に現れたのは、夏の終わりの頃だった。


 大雨とともに決壊した川、同時に現れたモンスターによって、川沿いの村は蹂躙され犠牲者が出た。


 ルネはその生き残りだった。


 必死に逃げてきたルネは、我が輩の神殿の供物を盗んで食べ、なんとか命を繋いでいる状況だった。


 自暴自棄になってもよい、そんな中でもこの娘は違った。


『ライネケ様、ごめんなさい。今日もごはんを食べさせてください』


 供物を拝借する前に、思い詰めた顔でそう謝り、自分が食べる分を少しだけ持って行く。


 いただきます・ごちそうさまも忘れない。


 ルネが我が輩に感謝るたび、我が輩に彼女の信仰心が流れ込んでくる。

 人間の信仰心は、精霊に力を与える。

 我が輩を信じるものは救われるのだ。


 ルネの信仰心は欲がなく、清らかで、強く美しいものだった。

 ルネによって力を得た我が輩は、なんとか彼女を救ってやりたい、そう思ったのだ。


 だから、リアムに引き合わせ、ルーナル侯爵家の養女となれるよう取り計らったのだ。


 ルナール侯爵家と我が輩はゆかりが深い。

 ルナール侯爵家と王家を、この土地に導いたのも我が輩だ。

 我が輩と、光、闇が両家をサポートし生まれたのがこの国だからだ。


◆◆◆◆


<しかし、失敗だったのやも知れぬーー>


 我が輩はルネから贈られてきた供物を眺め思う。


 王太子妃となり、日に日に豪華になる供物。


 しかし、比例するように信仰心は必死さを増してくる。


『どうか、ルナール領に帰らせてください』


 涙に暮れるルネの願いが、痛いほど伝わってくるのだ。


 ルネは王太子妃になってから、一度もルナール領には帰っていなかった。

 

<幸せになれたのだと思ったのだがな……>


 我が輩は後悔していた。


<王の妃というのは、人間の雌のなかでは一番の幸福ではなかったか? 我が輩はそう聞いていたのだが>


 ルネのおかげで、綺麗になっていく神殿。

 豪華な供物だけではなく、寄付も盛大にしてくれる。

 しかし、ルネの願いはただひとつ。


『どうか、ルナール領に帰らせてください』


 切実な思いが、我が輩の心を締め付ける。

 どうにかかなえてやりたいと、そう思っていた矢先、ルネは処刑され、領地は無法者に荒らされた。


 だから、我が輩は最後の力をルネに使うと決めたのだ。


<ルネの死に戻りに力を貸してくれまいか>


 我が輩は、キツネの大精霊たちに頭を下げた。

 今まで生きてきて初めての屈辱だ。

 しかし、背に腹は代えられぬ。

 ルネのためならしかたがない。


 大精霊の仲間達は、驚いたように我が輩を見て、静かに頷いた。


 ライネケがそこまで言うのなら、きっといい子なのだろうからーー。


 満場一致でルネの逆行転生が可決された。

 

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転生もふもふ令嬢のまったり領地改革記 ークールなお義兄様とあまあまスローライフを楽しんでいますー【web版】 藍上イオタ @AIUE_Iota

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