第19話


 牢の付近や出入口には、見張りはいないようだった。おそらく鍵を新しく頑丈なものに変えたため、見張りを撤退させたのだろう。

 無事地下牢の入口を抜けて、ホッとする。


(……このままこっそり抜け出して、街まで出られれば)


 そう思い、ハッとして考え込む。


(ラファエル王子の周辺を探れば、ソフィア様がいなくなった経緯や状況も分かるかな)


 王宮に背を向けてから考え直す。振り返ると、そこには石造りの豪奢な城がそびえ建っていた。


 その瞬間、王宮の入口門が音を立てて開き出した。ぎょっとして、オリヴィアは隠れる場所を探す。


 石像の裏に隠れ、息を整える。


(……し、心臓が飛び出すかと)


 城から出てきたのは、ラファエルだった。家臣となにやら話している。


「拷問でもなんでもして、ソフィアの居場所を聞き出せ」

「しかし……彼女はローレンシア公爵家の」

「オリヴィアはローレンシア家からとっくに勘当されてる。問題ない」

「はっ」


 ラファエルはそのままオリヴィアの脇を通り過ぎていく。気配が近付き、オリヴィアは身を固くした。


「私は街にもう一度ソフィアを探しに――」


 ラファエルが振り返る。そして、足を止めた。


「――待て」

 ラファエルの声が低くなる。


「どうなさいました?」

「地下牢の扉が開いているが」

「え?」


 ラファエルの声が一層不機嫌になる。


(……まずい。バレた)


 どうしよう、と狼狽する。

 ラファエルは地下牢の入口へ歩き出した。オリヴィアの所在を確かめに行くつもりなのだろう。


(このままここにいたらすぐに見つかっちゃう……)


 逃げなければ。

 ラファエルが背中を向けている今のうちに。

 幸い、家臣たちもラファエルの後に続いていこうとしている。


 そっと歩き出した瞬間、あろうことか一歩目で小枝を踏んだ。


 パキッと高らかな音が空に抜けるように響く。

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