第13話


 ソフィアは淑やかな笑みを浮かべて、レイルに一礼した。

 令嬢らしい洗練された所作だ。


 ソフィアは庶民の出である。きっと、ラファエルの婚約者としてかなりの努力をしたのだろう。


 ソフィアはレイルの向かいに腰を下ろすと、はにかみながら言った。

 

「まさか、今話題のドレスブランドを手がけていたのがレイル王子だったなんて、知りませんでしたわ」

「王家の者にも学校の者にも黙っていましたからね」

「どうして教えてくれなかったの?」


 どうして、と言われ言葉に詰まる。


 そんなの決まっている。聞かれなかったからだ。

 そもそも自分になど興味を持たなかったではないか、とひねくれたことを口走りそうになった。


「……まぁ、言ったところで、というか……身分で売れる、というのも違うと思いましたので」

「まぁ。素晴らしいわ」


 いいのだ。レイルにはオリヴィアがいる。彼女さえレイルのことを知っていればいいのだ。

 そう言い聞かせて、レイルはいつも通りの笑みを繕った。


 ソフィアは多才なのですね、と花のように笑う。

 

「僕もですよ。まさかソフィア様に気に入ってもらえるだなんて光栄です」


 レイルはトランクを差し出す。


「注文をいただいていたハイネックの幾何学柄きかがくがらブラウスと、同柄のキャミソールとスカートです。清楚なソフィア様に、きっととてもお似合いになると思いますよ」


 トランクを開けてみせると、ソフィアは瞳を輝かせた。

  

「わぁ、可愛い……特にこのスカートのドレープ。とても神秘的……」


 やはり、こういうところは普通の女の子と変わらない。

 

「あと、こちらは深紅のクラシカルドレスです。どうでしょう?」


 続いてレイルが見せたのは、深い紅色をした豪華なドレスだ。

 

 スカート部分には、これでもかというほどレースとフリルがふんだんにあしらわれている。

 ウエストには花柄が刺繍されたコルセットが付けられるようになっており、袖部分は透け感があった。


 涼やかなのに洗練されていて、今日用意したドレスの中でも、特に大人っぽいものだ。

  

「イメージぴったりですわ。ありがとう」 

「これは、今度の舞踏会用ですか?」


 来月、定例の舞踏会がある。

 ソフィアとラファエルの婚約発表も、そのときに大々的に発表される予定だ。


「えぇ……」

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