第10話


「さて。私も着替えようかな」


 カーディガンを合わせるのなら、とコーディネートを考える。


 クローゼットの数あるドレスの中から、弦や蔦の刺繍が施された若草色のシフォンブラウスとクリーム色のヘップバーンスカートを手に取った。


 オリヴィアのお気に入りのドレスのひとつである。

 まるで森の木漏れ日をイメージしたようなブラウスの艶感がたまらない。


「この服なら髪は編み込んでみようかな……」


 ひとりごとを呟いていると、

「いいね。それなら僕がやってあげるよ」

 と、声がした。

 

 驚いて振り向くと、着替えを済ませたレイルがいた。


 レイルの今日の服装は、夜空色の三つ揃いのスーツだった。

 ネクタイは鱗模様で、ピンは錦鯉のような魚の形をしている。遊び心満載で可愛らしい。

 

 銀髪は高い位置で結えられ、まるでシルクのようだ。夜空色のスーツに落ちた銀色は、まるで天の川の流れを連想させる。


 思わず見惚れていると、


「ほら、こっち」

 と、手を取られた。

 

「えっ、いいよ。これくらい……」

「やらせて?」


 レイルは優しくオリヴィアの手を引くと、ドレッサーの前に座らせる。


「オリヴィアさんの髪はさらさらで綺麗だね」

「そんなこと……」


 それを言うなら、レイルの銀髪の方がずっと綺麗だ。

 

 そうこうしているうちに、レイルによって髪を編み上げられた。


「どう?」

「すごい! 可愛い!」


 自分でやるよりずっと早いし丁寧だ。


 ありがとう、と言おうとして振り向くと、オリヴィアの顔に影が落ちた。

 小さなリップ音が静かな部屋に響く。


「!」


 オリヴィアが固まると、レイルはもう一度、今度はもう少し味わうように唇に口付けた。

 柔らかくあたたかい感触に、オリヴィアは目を瞠る。


 レイルがはにかむように笑う。

 

「オリヴィアさんの充電しとかないと、途中で電池切れるといけないからね」


 レイルは顎に手を添えたまま、囁くように言った。

 

「こういうことするなら……その、先に言ってくれても」


 オリヴィアは頬を染めて、恥ずかしそうに俯いた。


「おでことかほっぺはいいのに?」

「だって、不意打ちは心の準備ができてないし……その、もう完全に目が覚めてるとかなり恥ずかしいというか……」

「じゃあ、次からは申告する。その代わりもっと深くしていいよね?」 


 ピキッという音がした。オリヴィアが固まる。瞬く間に顔が真っ赤になった。


「冗談だよ」

「か……からかわないでよ、もう」


 すると、レイルがふふ、と笑う。オリヴィアは口を尖らせた。


「可愛いなぁ、オリヴィアさん」


 まったく、レイルには敵わない。


「じゃあ、行ってくるね」 


 レイルはひらひらと手を振って、にこやかに街へ出かけて行った。

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