脱獄生活
第6話
まぶたの裏に、すっと光が射した。頭の中を覆っていた
直後、少し吐息混じりの声が
「オリヴィアさん」
レイルの声だ。眩しさに眉を寄せながら、ゆっくりと目を開く。
「んん……レイルくん……?」
白いレースが揺れる。花の甘い香りがすっと鼻を抜けた。
起き上がり、後ろに手をつく。
ギシッとスプリングが軋む音がして、オリヴィアはようやく自分がベッドの上にいることに気付く。
ずきり、と頭が痛みを覚えた。
そうだった。悪役令嬢であるオリヴィアは王宮の牢から逃げてきたのだった。
レイルに連れられて森に逃げて、そして……。
「……ここ、どこ?」
周囲を見回す。
見慣れない部屋だ。王宮のような感じはしないが、豪華な調度品が並んでいる。
「おはよう、オリヴィアさん。ここは僕の隠れ家だよ」
「隠れ家……?」
声の方を見ると、レイルがいた。
黒のハイネックシャツに細身のパンツ、上からケープコートをまとっていた。髪はくくっていない。
いつもの清楚な格好と雰囲気が違い、大人っぽい。
「オリヴィアさん……よかった、顔色いいね」
ぎゅっと壊れ物に触れるように抱き締められる。
「わ……あ、あの……レイルくん?」
「ん〜オリヴィアさんいい匂い……可愛い」
首筋にレイルの吐息が触れ、びくりとする。
ろくな男性経験のないオリヴィアには、寝起きから刺激が強過ぎる。
「そのドレス、すごく似合ってる」
「ドレス……?」
抱き締められたまま、自分を見る。
オリヴィアはハイネックの白いリボンブラウスに、桃色のコルセットスカートを合わせていた。
スカートには花柄の刺繍が施されている。
腰の部分はリボンでキュッと締まっているのに、締め付けがない。
寝ていたのに皺の一つも付いていないところを見ると、かなり質のいいドレスだ。
「ほ……本当だ、可愛い」
これまでのオリヴィアとしてのドレスよりも品があって、清楚な感じがする。なによりオリヴィアの好みだった。
「でしょ? 他にも君に似合いそうなものたくさん用意しておいたから、好きに使ってね」
と、レイルはクローゼットへ視線を流した。
「これ……どれもすごく素敵だけど、どこで買ったの?」
「僕が作ったんだよ」
「えっ!? レイルくんが?」
(すご……)
「これ、魔力増幅の効能もあるんだ。結構好評なんだよ」
レイルがそっとオリヴィアの頬を撫でる。ぞく、と背筋が粟立った。
「全部君のためだ」
レイルらしくない、淡々とした低い声だった。ひやりとする。
「この家も、服も、全部、君を守るために作ったんだよ」
「私のため……?」
「これから君は、ここで僕と暮らすんだ」
「で、でも、国のことはどうするの?」
「大丈夫。君はなにも気にしなくていいんだ」
レイルは再びオリヴィアを抱き締めた。
「オリヴィアさん。僕と一緒に暮らしてくれるよね?」
そっとレイルがオリヴィアを覗き込む。
(その顔は反則……)
ぐ、と言葉に詰まった。
「オリヴィアさん?」
オリヴィアはこくんと頷いた。
こうして、オリヴィアはレイルとともに暮らすことになったのである。
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