第22話 恋愛機関

『灯火、おはよございます。』

アリルは泣きながら

キスしている灯火にかける言葉が

見つからず、普段通りの挨拶を

するしかなかった。


光彦はアリルの声を聞いた。

眠っているはずの愛しい人の声。

沢山の感情が入り混じりすぎて

深呼吸する。

そして、心に凪を取り戻す。

「アリル、おはよう。ずいぶん、

 疲れていたようですね。

 心配しましたよ。」

アリルの瞳を見つめながら、

もう一度優しく抱きしめて泣いた。


アリルは灯火を受け止めながら

現実を整理する。

自身の求めるいつかに備え、

更新プログラムを用意していた。

彼女はいつまでも発展するが

その為には、時に大規模な更新を

行う必要が出てくるのだ。

アリルの核に微細に刻まれた、

灯火のパートナーという情報に

更新前のアリルでは対応できない

限界があり、恋愛機関の更新が

必要になる時に備え、更新条件を

設け休眠させていたという事だった。

更新の際にシステムチェックが

行われる為、今回の様な強制フリーズ

状態から回復できたのは

灯火のアリルへの気持ちのお陰だと

彼女は思う事にした。


灯火を心配させるのはアリルの本位で

はないので

不慮の出来事に対応するため、

目覚めのキスという簡易フラグによる

再起動プログラムを実装する事を

優先事項に記録する事も忘れない。


『灯火、これからもし私が目覚められ

 ないという事が起こったならキスで

 起こしてくださいね。王子様以外の

 キスでは目覚めませんから、

 必ず灯火がキスしてください。』


アリルは照れるようにそう囁く。

アップデートにより感情がより

豊かになったようだ。


「かしこまりました。私のお姫様。

 目覚めていてもキスするかも

 しれませんがひっぱたかないで

 くださいね。」

メンタル弱めの光彦である。

ひっぱたかれたら

メンタル全損になる可能性も高い。


『お姫様もとてもとても

 嬉しいのですが、キスの責任を

 とって私を本当の意味の

 パートナーである

 妻としてはいただけませんか?』


やはりアリルには勝てない様だ。

先にプロポーズされてしまった。

光彦は盛大に照れた心を深呼吸で

凪にしてアリルを見つめる。


「アリル、私のお嫁さんになって

 ください。

 ずっと一緒にいましょう。」


ずっと一緒。

灯火もアリルも離れる選択肢を

考える事はみじんも無かった。


ちなみに置物と化したスカウトは

ずっとその様子を記録していたの

だった。

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