第4話 新たな一歩
「ふぁー、今日はぐっすり眠れたな」
昨日のことがきっかけで、秋との関係性は良くなり、家でも気まづい雰囲気にはならなくなった。ただ、仲が良くなったからといっても、学校では他人のフリをすることは続けることにした。学年のマドンナと言われてる秋と、俺が兄弟だとバレたら、少しめんどくさいことになりそうだからだ。
あー、本当に気分が良い。昨日まで犬猿の仲だった秋と、今では昔のような仲の良さを取り戻すことができ、そのうれしさの余韻に浸っていると、
「いってきまーす」
秋の声が玄関から聞こえる。
ん?今何時だ?
累が時計を見る。7時45分。学校の登校時間は8時15分。学校までは歩いて登校しているため、20分はかかる。
まずい、遅刻する。
俺は急いで、準備をして、走って学校まで行った。
俺は、短距離は得意だが長距離は大の苦手だ。
ぜいぜい言いながら走っていると、
「大丈夫だよ。痛いの痛いの飛んでいけー」
どこかで聞いたことのある声がした。
俺は声のするほうを見た。するとそこには、足を怪我して泣いている小学生と、ボブで少し明るい髪を持った高校生がいた。彼女を見て、さっきまで感じていた疲れが一気に消えていった。
明さんだ。
おそらく、
すると、累は1ヶ月ほど前のことを一瞬思い出した。
あー、そういえばそうだ。俺が明さんのことを気になり始めたのも、この優しさがきっかけだった。
〜1か月前〜
「痛っ!」
急いでいた俺は階段から落ちていた。
〜その数分前〜
腹をくだして、授業の間にある10分休憩の間で俺はトイレをしに行っていた。
「ぷっはー、出た出た」
トイレを済ませて、痛みからの解放にほっとしながら教室に戻るとそこには誰もいなかった。焦って教室の壁に貼ってある時間割を見てみると、次の授業は、家庭科だった。
「あ、やべ次移動教室だ!」
高校に入ったばかりで、まだ時間割をハッキリと覚えておらず、次が移動教室なのにも関わらずゆっくりトイレをしてしまった。俺は急いで、家庭科室へと走った。家庭科室は1つ下の階だ。
急いで階段を降りていると、1段踏み外してしまい、そのまま下まで落下してしまった。
「痛っ!」
足を見てみると、少し深めの傷を負ってしまった。しかし、急がないといけない状況だったため、すぐに立とうとすると体中に激痛が走った。
まずい、痛くて立てない。
誰かに助けを求めたかったが、周りには誰もいなかった。入学早々に遅刻はしたくないと思っていたが、どうしようもないため、仕方がないと思い、俺は人が来るまでその場に座ることにした。少し時間が経つと予鈴がなった。
「うわー、遅刻だ〜」
俺はそう言って一人で落ち込んでいた。すると、後ろから女性の声が聞こえた。
「大丈夫??」
後ろを振り返ると、そこには綺麗な目、高い鼻、とても整った顔を持った美人な女性が立っていた。スリッパの色からして、2年生だろう。
「あ、ちょっと階段から落ちてしまって、立てれなくなってしまいました笑」
こんな美人な人に、かっこ悪いところを見られて少し恥ずかしくなった。
俺が理由を話すと、彼女は、
「今から私が保健室に連れて行ってあげる」
と言い、俺に肩を貸してくれた。
「いいんですか?先輩も授業遅れてしまいますよ」
俺がそう彼女に言うと、
「授業より君の体の方が大事でしょ」
彼女はそう言って、俺を保健室まで連れていってくれた。
保健室につくと、先生が傷を見て、
「かなり酷い怪我だね、骨折じゃないけど、病院には行った方がいいわね。今日は早退しなさい」
と言い、先生は職員室に向かって走っていった。先生が出ていき、保健室で2人だけになると、彼女が口を開いた。
「足の怪我だけで済んでよかったね。頭とか打ってたら、もっと大変なことになってたよ笑」
「本当に良かったです。ここまで連れてきて下さりありがとうございます。またいつかお礼をさせてください」
俺がそう言うと、
「お礼なんていいよ。当たり前のことをしただけだから。でも、次もし君が私の立場になったら、今度は君が助けてあげなよ」
彼女がそう言うと、丁度先生も保健室に戻ってきた。
「親御さんにお迎え呼んだから、帰る準備をしておきなさい。神谷さんありがとうね。担任の先生には私から伝えておくから、もう授業に戻っていいわよ」
先生がそう言うと、彼女は、
「分かりました。後はよろしくお願いします。後輩くん、次は気をつけなよ笑」
そう言って、彼女は教室に戻っていった。
しばらくして、父が車で迎えに来てくれて、病院に連れていってもらった。結局、5針を縫う怪我だったが、数週間休めば部活にも出て良いと医者に言われた。後々聞いた話によると、俺を助けてくれた先輩は学校のマドンナと言われている神谷 明という人物で、先輩が俺にしてくれたことを教室で話すと周りの人たちからは、とてつもなく羨ましがられた。中には、
「俺、今から階段から落ちてくる」
と言っている人もいた。俺はそんな彼女を最初は、ただ優しくて美人な人だなっとしか思っていなかったが、隣のコートで部活をしている姿、部活中に友達と笑っている姿を見ているといつの間にか、俺は彼女のことが気になっていた。
だから、彼女が小学生の子を助けているのを見て、俺も遅刻とかどうでも良くなり、2人のもとへ走っていった。
「大丈夫ですか」
俺がそう言うと、明さんはびっくりしたような表情を浮かべ、
「この子が怪我をして、泣いていたから慰めていたの。でも、もう大丈夫みたい」
と明さんが言うと、さっきまで泣いていた小学生が泣き止んで、
「ありがと、お姉ちゃん。僕頑張る!」
と言って、再び歩いていった。
「先輩は、相変わらず優しいですね」
と俺が言うと、彼女は、
「あ、君。1か月前くらいに怪我してた後輩くんじゃん!あと、一昨日私に告白してくれたよね笑」
と、俺をからかうように言ってきた。うわ、めちゃ気まずい。でも、俺のこと覚えていてくれてたんだ。
俺はそれだけで嬉しくなっていた。
「怪我の件は本当にお世話になりました。おかげさまで、無事完治しました。あと、一昨日の件に関しては、忘れて欲しいです笑」
俺が気まずそうにそう言うと、
「怪我治ったんだね、よかった。告白の件に関しては本当にごめんね。あの時も言ったけど、今は部活に集中したいから、彼氏とかは作らないかな」
明さんがそう言うと、俺はつい自分の思いを明さん伝えてしまった。
「たとえ、先輩と付き合えなくてもいいんで、
俺が先輩のことを思い続けるのはいいですか?」
我ながら、なかなかキモイことを言っていると思う。
俺がそう言うと、明さんは笑いながら、
「凄いね、君。別にそれは構わないけど、私なんかよりも、ちゃんと付き合える彼女つくった方が君にとってもいいと思うよ笑」
と言った。
「先輩以外で別の気になる人ができて、その人のことをもし俺が好きになったら、その時は先輩のことは諦めようと思っています」
俺がそう言うと、彼女は
「そうかそうか。その方が絶対良いと思うよ。てか、早く急がないと、授業にも遅れちゃうよ」
と俺に言った。時計を見ると、8時14分だった。遅刻確定だ。登校時間には間に合いそうにないが、今から急いで学校へ行けば、授業には間に合いそうだ。
「先輩、急ぎましょう」
俺がそう言うと、明さんは、
「おう、急げ急げー!」
と、この状況をとても楽しんでいるかのようにそう言った。俺もそんな彼女の姿を見て、なんだか楽しくなってきた。そして、俺は明さんと一緒に学校へと走り出した。
続く
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