第34話 新たにやりたいこと
だいぶ遅くなってしまった。
辺りはすっかり暗くなっている。
教員たちとの新魔法に関する議論が白熱しすぎたんだ。俺が創った魔法なんだけど、まったく違った解釈もできるということが分かって面白かった。基本的には俺が想定した使い方の方が効果的だったり強かったりするが、中には想定外の使い方をした方が面白い効果を得られそうな魔法がいくつもあった。
俺は何年も異世界での無双を夢見て、独自の魔法体系を構築した。その構想の密度は自身がある。でもやっぱり、ひとりでやる創造には限界があるみたい。
ひとりで何年も考えるより、たった1日でもいいから他人の意見を聞くってことがすごく大事だと実感している。
今日は本当に素晴らしい1日だった。
「俺を魔法学園に誘ってくれた君のおかげだよ。ありがと、リエル」
感謝を伝えるが、彼女からの返事はない。
いつの間にか寝てしまっていたリエルは、身体を揺すっても起きなかった。夜になると教員室も閉められてしまうというので、仕方なしに彼女を背負って寮に向かっているんだ。
リエルは凄く軽かった。
オタクで貧弱な俺の筋力でも、なんとか背負って移動することができる。
ちょっと大変だけど、教員たちとの会話で精神が昂ぶっていた俺は頑張れた。あと歩いていると、リエルの髪がたまに俺の肩にかかる。その時にふわっと良い匂いがして、更に頑張れた。
美少女を背負って歩くなんて、俺リア充じゃね?
ちょっと気持ち悪い笑みを浮かべてしまったかもしれない。
美少女ハーフエルフを背負い、不気味に笑う変態。そんなのを誰かに見られたら衛兵さんに速攻で通報されそうだ。平常心を心がけよう。
背中にあたる柔らかい感触とか、手から伝わる太ももの感触は意識しないようにしている。服の袖を伸ばし、なるべく彼女の素肌に触れないよう努めていた。
童貞男子には刺激が強すぎる。
中央塔から歩くこと10分。
「や、やっとついた。ここか」
編入生用の寮までたどり着いた。
正規の時期に入学した学生は男女別の寮に入るけど、俺やリエルのような編入生は数がそれほど多くないため、ひとつのシェアハウスのような寮に入れられるらしい。
一般学生の寮に空きが出れば、そっちに移動を希望することも可能だとか。
「リエル、起きて」
背中の彼女に改めて声をかけるが、反応はない。
なんでここまで熟睡できるんだ?
もし運んできたのが俺じゃなきゃ、君みたいな美少女は襲われちゃうよ? そこんとこ、後で俺によーく感謝してもらいたい。
どうしようもないので、とりあえず寮の中に入った。
エントランスの先は広い共用スペースで、大きな机と6脚の椅子が設置されていた。後方の壁際には調理台や、食料を保管しておく棚がある。前方には男女別々のシャワールームがあり、そこにトイレが併設されてるみたい。
男女のシャワールームの間には3人掛けのソファーが置いてある。ここにリエルを寝かせておくのもありかもしれないな。
……いや、流石に可愛そうか。
共有スペースの左右に3部屋ずつ学生の個室があった。個室の鍵で寮に入る扉も開くという親切設計。魔法の鍵っぽくて、けっこう凄い。
この世界に元からある魔法は数が少なくて汎用性に欠ける。でもその代わりに魔道具がかなり発達していた。例えば寮の共有スペースを明るく照らす魔道具。これは俺が中に入ったら自動で点灯した。
人感センサでもついてんの?
すごいな、仕組みを知りたい。
俺は暇つぶしのためにここに来たけど、魔道具のこと学ぶという新たなやりたいことが見つかってしまった。
「俺の部屋の鍵はもらってるけど……。しまった、リエルの部屋の鍵を貰い忘れた」
『この共有スペースで寝せておけばいいんじゃないですか?』
もし背負ってるのが田中とかだったら、俺は迷わずそうする。でもこの寮にいるのが女性ばかりとは限らないので、朝起きてきた時に何か問題が起きても困る。
そこで、まず俺の部屋にリエルを連れ込んだ。
『ま、まさか祐真様、寝ている女性を襲うつもりですか!?』
「何もしないって」
童貞を舐めるな。
そんなことできるわけないだろ。
部屋にはベッドや机、椅子などの必要最低限の家具が置いてあった。幸いなことに布団もある。
俺はゆっくりベッドにリエルを寝せて、布団をかけた。
リエルの部屋に入れないなら、彼女を俺の部屋で寝せて、俺が共有スペースで寝れば良い。完璧な作戦だ。
「おやすみ、リエル。また明日ね」
そう言って俺は静かに部屋を出た。
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