第17話 もう一回、お別れ

 

「静寂破りて雷鳴響く、開闢より幾星霜、其の天楼に雷を蓄積せし巍然たる大精霊よ。我の敵を塵芥のひとつも残さず殲滅せよ、雷哮──って言うのが、最上級雷魔法の詠唱だよ」


 勇者のみなとと特許実施許諾契約を結び、詠唱を教える。彼は闇属性と光属性、それからたった今教えた雷属性の最上級攻撃魔法を使いたいと言ってきた。


「……すまん、詠唱のメモをもらって良い?」


「はいコレ、どーぞ」


 事前に準備していた呪文メモを湊に手渡す。


「それから初めにも言ったけど、この詠唱で魔法を発動させて魔物を倒すとレベルアップの時にステータスポイントを5%もらうからね」


「たった5%だろ? 全然いいよ。ありがとな、ユーマ!」


 湊は勇者で、他のクラスメイトよりレベルが上がりやすいらしい。そんな彼に俺の魔法を使ってもらえれば、俺はどんどん強くなれるはず。


 だから湊には頑張ってもらいたい。


「湊でも最上級魔法は魔攻不足でまだ使えないから、もっと汎用的で使いやすい魔法を2つ用意してある。そっちも俺と契約してくれる? 全部でレベルアップ時のSPを15%も貰うことになっちゃうけど……」


「魔法使わなきゃSP取られないんだよな」


「うん。5個契約することになるけど、レベルアップまでに使った魔法が1個だけなら発生する特許使用料は5%だけだよ」

 

「ならおっけー! 契約するよ!! 上級魔法の威力じゃ一発で倒せない敵が出てきたから、ちょうど良かった。今からユーマの魔法を使うのが楽しみ」


 上級魔法でも倒せないって……。こいつ、もうそんな強敵と戦ってるのか。


 俺も早くステータスを上げて無双したい!!



 ──***──


「ほんとに俺たちと一緒に来ないのか?」


「ユーマは俺たちのレベルアップですぐ強くなれるんだろ? だったらそれまでの期間ぐらい守ってあげるよ」


「俺らが魔法使うとこ、見てほしいしな」


 田中たちは一緒に来ていいって言ってくれる。でも俺はそれを断ることを決めていた。


 物理防御10の俺じゃ、みんなの足でまといになるのは目に見えていた。特に湊がレベルを上げられるような魔物を倒しに行くのであれば、俺は一緒に居ない方がいいと思っていた。


 この女神様が準備してくれた古城にいれば絶対安全なんだ。俺はここで、安全に行動できるくらいステータスポイントが上がるまで待てば良い。


 だからもう1回お別れすることくらいは耐えられる。次にみんなが来てくれたら、その時こそ俺は彼らと一緒に旅をするんだ。




 クラスのみんなが旅立ちの準備をしている時。


「ユーマ君、ちょっといい?」


 唯奈ゆいなさんが俺に話しかけてきた。


「なにかな? 契約した魔法を変えたくなったとか?」


 平静を装う。

 けどめっちゃ緊張してる。


 元の世界じゃ、遠くから見てるだけでまともに話したことはほとんどなかったから仕方ない。


「ユーマ君は装備がないから私たちと一緒に来れないんだよね? でも私のローブなら着られるんでしょ。だからね、その……。ユーマ君が嫌じゃなければ、これ使ってもいいよ」


 そう言いながら折りたたんだローブを俺に差し出してきた。


「い、いや、でもこれ」


「さっき脱いだから、洗濯とかは出来てないの。汗とかで汚れてたらごめんね」


 むしろご褒美ですが!?


 俺が気にしてるのはそこじゃない。


「俺がこれを着たら、唯奈さんは?」


「これを脱いでもユーマ君より物理防御は高いから大丈夫」


 ぐふっ。

 た、確かにそうですね。


 でもそれ以外にも問題がある。


 単純に女子が着てたモノを恥ずかしくて着られないってこと。


「……やっぱりコレは唯奈さんが着て。俺は時間が経てばステータスポイントが貯まって、魔物とも戦えるようになる。次にみんなが戻ってきてくれたら、その時は一緒に行くよ!」


 みんながダンジョンから回収してきてくれた装備は唯奈さんも使えない。俺が彼女の装備を受け取るわけにはいかないんだ。


「そう、わかった。じゃあ私、ユーマ君の魔法いっぱい使うね。そうすればユーマ君も強くなれるんでしょ。私、頑張る」


 危ないことは湊や田中など、クラスの男どもに任せとけば良いと思うのだけど……。でも、唯奈さんの気持ちが嬉しかった。


 まぁ、湊たちが彼女に無理をさせることはないだろう。


「うん、よろしくね。それから、気をつけて」



 その後俺は、クラスメイトたちと2度目のお別れをした。

 

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