第12話 拒絶理由通知


『……あぁ。ダメです、また拒絶理由通知が届きました』


 魔法詠唱を100個特許登録する目標に向かい、ひたすら詠唱を特許申請している。その過程でアイリスが暗い声を上げることが多くなってきた。


「その拒絶理由通知ってなに? 特許化ができなかったってこと?」


『権利を付与しない処分が下されてしまう“拒絶査定”ではないので、まだ権利化の可能性は残されているのですが……。拒絶理由通知が届くと “意見書・補正書” を提出する必要があるので、その対応が大変なのです』


 また聞いたことない単語が出てきた。

 特許って、マジで複雑。


『この際ですので追加の説明をしておきましょう。この世界で魔法の詠唱として使える様式を満たしていれば実体審査までで拒絶されることはありません。この段階で新規性・進歩性が認められれば、特許査定となります』


「今回のは、そこでダメだったってことか」


『えぇ。魔法としては使える詠唱ですが、新規性・進歩性が認められませんでした。その内容を記した拒絶理由通知が届きました。こちらです』




[拒絶理由通知書] 

発信日:セシル暦245年5月13日


【出願番号】特願245ー00058

【起案日】セシル暦245年5月13日

【発明者】九条 祐真

【代理人】アイリス(ガイドライン)


この出願は、次の理由によって拒絶されます。これについて意見がある場合は、通知書発信日から60日以内に意見書を提出してください。


【理由】

1.(新規性)この出願の下記請求項に係る部分は、その出願前の段階で公衆に利用可能となっているため、特許を受けることができない。


2.(進歩性)この出願の下記請求項に係る部分は、その出願前の段階で公衆に利用可能となっている発明に基づいて、出願人と同等の魔法知識を有する者が容易に発明をすることのできる者であるから、特許を受けることができない。


【記】

理由1(新規性について)

請求項2 “風の精霊よ、悠然たる精霊よ” という部分について、初級魔法の文頭を2文節にして魔法の威力を向上させる手法は、引用文献1(特許第0000008号)に類似の手法が記載されている。特に請求項2の “水の精霊よ、可憐なる精霊よ” である。

よって、この出願の請求項2において新規性は無いものと判断する。

(以下略)




 拒絶理由通知書に記載されている拒絶理由1で、引用文献にある特許第0000008号は、俺が特許権利化した水龍弾だ。


「これって……。えっと、つまり俺の出した特許が原因で、後に出した特許が拒絶されたってこと?」


『そうなりますね』


「えっ。俺の特許なのに、俺の出願を邪魔しちゃうの!?」


『それが特許というものです。たとえ同一の出願人であっても、特許化に新規性と進歩性が必要であるという点は変えられません。祐真様が先に出願された水龍弾が権利化されたので、後に出願したほぼ同一内容の他属性魔法はどれも新規性が認められなくなってしまうのです』


 そ、そうなんだ。


 最初の方は結構順調に魔法詠唱を登録できてたから、これなら100個は簡単だと思った。だって魔法の属性は火、水、風、土、雷、光、闇の7種類ある。ひとつ詠唱を考案すれば、それを少し変えて別の属性魔法の詠唱にしてしまうのは楽勝だ。


 ……あっ、そうか。

 楽勝じゃダメなんだ。


 アイリスから、特許明細書で詠唱の構成を補足することで、第三者がちょっと変えたくらいじゃ魔法を使えないようになってるって聞いていた。


 進歩性も主張しにくい。


 そうなると、ちょっとまずいかも。


 俺はそれぞれの属性に合せた単語を選ぶことで、魔法の最適化をしようとしていた。そのため同じ構成で違う単語を使い、複数属性の魔法をいくつか登録したいって考えていたんだ。


 それが各魔法、最初に出願した1属性しか登録できないってなると、俺の理想としていた魔法体系が崩れてしまう。魔法詠唱の構造が同じなら、別属性であっても詠唱を覚えやすいってメリットもあるんだ。権利化するために無理やり進歩性を入れて、そのメリットを無くしたくはない。


「どうしよう……」


『ご安心ください。今の所、意見書の提出でほとんどが特許査定となっています。私の作成した明細書と、私の交渉術を見くびらないでいただきたい! ただ、拒絶査定が増えてきて、その対応が間に合っていない状況です』


「じゃあ、問題ないってこと?」


『今のところは。しかし今後、意見書を出しても、補正しても拒絶査定をくらう可能性は大いにあります。もし “最後の拒絶理由通知” に対する補正でも拒絶査定を出された場合、私は “拒絶査定不服審判” を請求して戦う所存です! 祐真様が発案された偉大な魔法の数々を、私はひとつも無駄にはさせません!!』


 全然意味がわかんないんだけど、なんかアイリスがカッコよかった。


 もし彼女に身体があれば、全力で頭を撫でてあげたい。望むなら、それ以外のことでも良い。全力で頑張ってくれるアイリスに、何らかの形でお礼がしたい。


 俺はそんなことを考えていた。

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