第7話 スキルに極振り


 どうやら俺が魔法を放った先に、たまたま魔物がいたらしい。


「……って、そんな都合よいことある?」


 この世界の魔物で、一番危ないのはSランクって言われてる。ドラゴンとかがそのランク。異世界から来た勇者が成長した後でも装備が揃っていなければ苦戦するのがAランク。Bランクの魔物を倒せれば、王国の騎士や宮廷魔導士として召し抱えられるぐらいになる。つまり、Bランクの魔物ってかなり強いんだ。


 そんな魔物が、たまたま俺の空撃ちで放った魔法に巻き込まれるとかある?


 確かにかなりの広範囲を消滅させたけれども……。


『初回サービスです』


「えっ?」


祐真ゆうま様がクラスメイトの方々の元へ向かうため、ステータスも上げたいとおっしゃっていましたから。勝手ながらレベルがあげられるよう、指示をさせていただきました』


「もしかして、あの方向に打てば魔物が倒せるって分かってたの?」


『狙うように言った大木は、何年も前からキンググリズリーの住処でした。私が把握していたのはそれだけです。黒狼など他の魔物がたくさん巻き込まれたのは、祐真様が考案された魔法の威力の賜物ですね』


 偶然で俺、150体以上も魔物を倒せたのか。


 アイリスに魔物を索敵する能力があると思って期待した。もしそうなら、今後は安全圏から魔物のいる方角に向かって魔法を放てば良い。新たに特許化した魔法を1回魔力フリーで放てる特典でね。


 でも索敵能力はないらしい。

 ちょっと残念。


『魔物の位置は分かりませんが、祐真様が魔法を放つ範囲にヒトが居ないかどうかは分かりますよ。知らないヒトを巻き込みたくはないでしょう?』


「もちろんそうだよ。あ、でもそれには、俺が使う魔法がどんなものか分かってないとだめだよね? アイリスはどうやって魔法の効果を理解したの? 詠唱で?」


 この世界の魔法は、詠唱で精霊を崇める文章を伸ばせば威力が高くなる傾向があるって気が付いた。だから詠唱の半分以上は、いかに雷を司る精霊が偉大かを表現している。攻撃を表すのは “我の敵を塵芥のひとつも残さず殲滅せよ” の部分だけ。


 正直これでは魔法の効果が分からない。


 イメージしながら魔法を放ったが、そのイメージ通りに発動した。もしかして精霊って、俺の脳内イメージを理解できるってこと?


『そうですよ。ちなみに私も、祐真様が考えていることを知ることができます』


 えっ、マジ!?


『マジです。口に出さずとも、頭の中で私に話しかけていただければそれで大丈夫なのです。戦闘中など、敵に知られることなく作戦を立案し、共有することだって可能な機能です。是非ご活用ください』


 そうなんだ……。


 ガイドラインって、俺の心の声も聞こえちゃうんだ。

 

 これじゃムフフな妄想とかできないな。

 セクハラになっちゃう。


『私はスキルですので、お気になさらず。もしそれでも気になるようでしたら、スキルをオフにすることも可能ですよ』


「そうなの? でもなにかと便利だから、オフにはしないかな。今はひとりで寂しいし。アイリスが話しかけてくれて、俺は凄く助かってる」


『もったいないお言葉。では、これからも祐真様のサポートとして、おそばに仕えさせていただきますね』


「うん。よろしく!」


『はい。ところで祐真様、せっかく手に入れたステータスポイントです。何に割り振るかはお決めになられましたか? レベルが31上昇していますので、310SPを獲得しています。魔法使いとして強くなれる推奨のポイント割り振りをお伝えすることも可能ですが、ご希望でしょうか?』


 テンプレート的なステータスの上げ方があるんだ。


 でも、俺は──



「全部【特許権】に使うよ!」


『えっと、全てのポイントをスキルに使用するのですか?』


「そう。全部使って詠唱を登録すれば初めの100ポイントと合せて41個魔法を特許化できる。できれば100個まではステータス上げるより先に権利化しておきたい」


『100個も……。それほどたくさんの魔法詠唱を考案できるのですか?』


「ううん。改めて考える必要なんてないよ。だってこの世界を来る前に、千個は魔法を考えてあるから」


『せ、千!?』


 もし異世界に言って、妄想していた魔法詠唱が使えるってなった時、“千の魔法使いサウザンド マジシャン” という二つ名を自称したかったんだ。


 だから俺の暗黒呪文集ダークネス オブ スキルズには魔法の詠唱が千個書き記されている。そのノート自体はこっちの世界に持ってきていないけど、ほとんど覚えているから何の問題もない。


 雷哮のように、この世界の魔法詠唱ルールでそのまま使えそうなのが30個。少し改変したら使えそうなのが70個くらいある。ベースがあるので、完全に新呪文を考案するのだって難しくない。



「アイリス!」


『は、はい』


「お城に戻って、魔法詠唱の特許を登録しまくるよ!!」


『承知致しました』



 クラスメイトたちが食料を届けてくれると約束した日まであと3日。


 それまでに俺は最低41個の魔法を特許登録する。もしレベルアップ出来て、更に増やせるのであれば100個まで登録してしまいたい。



 俺がステータスを上げるより、スキルを優先するのにはちゃんと理由がある。


 特許実施許諾契約で得られるのは俺が特許化した魔法を誰かが使ってレベルアップした時の5%らしい。ステータスポイントはレベル1から2に上がる時も、レベル30から31に上がる時も変わらずもらえるのは10SPだけ。


 ということは、レベルが上がりやすい早い段階でクラスメイトたちに俺の魔法を使ってもらう必要があるんだ。それは早ければ早いほど良い。


 ただしレベルアップ時のステータスポイントを5%も支払って良いと思えるほど、俺の魔法を使うメリットがなければ、みんなに使ってもらうことはできないだろう。


 そのために俺は便利で強い魔法をたくさん用意しておく必要があるんだ。


 いくら便利で強くても、レパートリーがなければクラスメイト全員には使ってもらえない。この世界では戦士系も身体強化魔法を使える。


 つまり本当にみんなのことを考えて魔法を創って特許化しておけば、純粋な魔法使いだけじゃなく、クラスメイト全員が俺の魔法を使ってくれる可能性がある。


 クラスメイトは、俺を除いて32人。


 その全員が俺と特許実施許諾契約を結んで、全員がレベルアップしてくれれば、とんでもない量のステータスポイントが俺に入るようになる。


 ステータスを上げるのはそれからでも遅くない。


 だからやるしかない!

 今こそ頑張るべきなんだ!!

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