第6話 メイキング 後編
「次は魔術適性か」
影治が「魔術適正」を選択すると、基本魔術適性、攻撃魔術適性、防御魔術適性、補助魔術適性、治癒魔術適性の5つの項目が表示された。
こちらも能力同様に1ポイントずつ振れるようだが、振ってみても現在値は分からない。
「またかよ。これだけだと何に振っていいか分からんな」
これもとりあえず保留として、次の「属性適性」へと移る。
そこには火、水、土、風というファンタジーな世界でよくみられる4つの属性の他に、氷、雷、光、闇という4つの属性……計8つの属性が表示されていた。
どうやらこの8つの属性に、ポイントを1ずつ振って上げることが出来るらしい。
「ふうむ。属性は8つ……と。どの属性もポイントを1消費することで上げられるっぽいが……これも後回しだ」
次にチェックした「魔術修得」の項目では、こちらも同じく8つの属性のどれかを選べるようだった。
試しに魔術修得で火属性を選んでみると、ポイントが20も消費された。
ポイント表示だけはどの場面でも下に表示されているので、そこだけは不親切なメイキングシステムの唯一の救いとも言える。
影治はそのあと他の属性も試してみた。
そして判明したのは、火、土、風、水の4属性は20ポイント。
氷と雷が30ポイント。
そして光と闇が40ポイント消費することを確認出来た。
「これはちょっとした情報になる。火属性などよりは光や闇属性の方が貴重だということになりそうだ。にしても、『魔法』ではなく『魔術』なんだな」
ちょっとしたことだが、影治は表示されている文字に疑問を抱く。
魔法のことを何と呼ぶかは、作品によっても異なる。
また作品によっては魔術と魔法では意味合いが異なるものとして描かれるものもあるので、魔法ではなく魔術と表示されていることにも何か意味があるのかもしれない。
そんなことを影治は考えていた。
「しかし、属性適正では火属性も光属性も同じ1ポイントで上げることが出来たのに、何故魔術修得ではポイントに開きが出ているんだ? これだと属性適正を上げる場合、魔術修得でポイントが多く必要な光属性や闇属性を上げる方が効率良さそうなんだが……」
理由をあれこれ考えてみるも、結局分からないもんは分からないという結論に至る影治。
気分を取り直して次の項目へと移る。
「まあそれは良いとして、次の特殊属性獲得に移ろう。って、これまた大分多いな」
そこには10以上もの「特殊属性」が表示されていた。
無属性や空間属性や時属性。
神聖属性や暗黒属性など、名称からイメージできそうな属性がずらりと並んでいる。
ポイント的には一番低いのが無属性の10ポイントで、逆に一番高いのが時属性の100ポイント。
ただ時属性だけが飛びぬけて高いだけで、他属性は高くても50位のものが多い。
「ほおう、こいつはまず一つ確保しておきたいものは決まったな」
ここに来て、ようやく影治の中でまずこれだけは選択しようと思う項目が登場する。
それは空間属性でも時属性でもなく、回復属性だった。
「何が待ち受けているか分からん場所において、回復出来るというのは大きなアドバンテージだ。それに武術の鍛錬を行うにしても魔法で……いや魔術で回復出来るならかなり捗る」
影治が子供の頃から父親に習わされてきた四之宮流古武術。
それは1000年以上前より、四之宮家に代々伝わってきたとされる家伝の古武術だ。
幼いころより影治は父からその話を聞かされて育っていたが、影治自身は話半分に聞いていた。
なんせ、時の天皇陛下を影から守っていた! だとか、徳川家康を影から支えてきた一族だ! だとか色々と胡散臭い話が多いのだ。
それも書物に残さず、口伝のみでしか伝承されていないというのが胡散臭さに拍車をかけている。
だが
影治が無人島で一人、ゴブリンやオーク達を相手に生き延びられたのも全ては四之宮流古武術のお陰だ。
合気道の達人が演舞で見せるような、傍目には「お前やってるんちゃうか?」と言われるような怪しげな技術も、四之宮流では幾つも伝承されている。
でなければゴブリンやオークならまだしも、オーガ相手に普通の人間が立ち向かうことは出来なかっただろう。
「まあ回復属性はキープとして、次の項目は武器適性か。こいつは余り魅力を感じんな」
そう言いながらも「武器特製」の内容を確認する影治。
武器適性には、短剣、剣、槍、斧、棒、素手、槌、縦、弓、投擲といったものが表示されている。
銃器などはないようで、鞭だとか鎖鎌とかいった少し特殊な武器適性も表示されていない。
「ふむ……、やはりこれはどうでもいいか」
そこまで影治が言い切るのは、四之宮流古武術には武器術も存在し、すでにこの中のいくつかを高いレベルで修得していたからだ。
武器適性という項目なので、実際に出来るかどうかよりはそれぞれの武器の才能的なものを上げることが出来るのだろう。
だがこと才能に関していえば、四之宮影治は天才としか例えようがなかった。
これは武術や武器術だけでなく、他のあらゆる面においても同様だ。
1教えると10学ぶ影治には、わざわざ適性を強化するまでもない。
少なくとも影治自身はそう判断した。
「技術も……似たようなものか」
「技術」を選ぶと、そこには乗馬、鍛冶、裁縫、石工などといったものが並んでいた。
どれも日常生活の中で得るような、戦闘系以外の技術といった感じだ。
サバイバル術というものがあれば、影治は間違いなく島での暮らしで獲得していたことだろう。
「それに対し特殊技術は……なるほど。これは
影治が「特殊技術」の項目を選ぶと、そこには定番の鑑定やらアイテムボックスやらが並んでいた。
しかしそのどれもが消費ポイントが高い。
「最低ラインの命術というのでも消費ポイントが30。アイテムボックスは200ポイントも必要だし、鑑定に至っては300ポイントにもなる。これまで見た中だと種族設定の最高値の次に高い数値だ」
これはつまり種族を取るかスキルを取るか。
そういう選択なのだろうかと影治は思う。
或いはポイントを半々に分けて、その範囲で良さそうなものを双方から選ぶか。
「にしても、鑑定スキルのポイントの高さが気になるな」
このキャラクターメイクにおいて、影治は一度も自分の現在ステータスを確認出来ていない。
そしてこの鑑定スキルのポイントの高さ。
これはつまり、転生先となる世界では一般に鑑定スキルの使用者が希少ということを示唆しているのではないか?
「そうなると、鑑定スキルを得ることでかなり優位に立つことが出来る。だがそうなると、ほとんどポイントを消費してしまうし……って待てよ」
影治はここでふと、自分以外にも転生者がいるのかどうかということに意識が向く。
そのきっかけとなったのは鑑定のスキル。
もしこのスキルを他の転生者が持っていた場合、自分だけが一方的に不利になるのではないか? そう考えたのだ。
「いや待て。俺は30年以上生き延びた実績でボーナスポイント300を貰ったんだったな。俺が見たのは崩壊後の日本のほんの一部だったが、結局生き残りには出会えなかった。それにもし生き延びていたとして、そいつが転生の条件を満たしていない可能性や転生を願わなかった可能性もある」
ボーナスポイントを除けば、影治が元来所持していたと思われるポイントは51。
この数値では、多くの種族やスキルが選択出来ないことになる。
「そうなると、そこまで気にすることでもないか? 鑑定妨害のスキルもあるみてえだが、こちらは妨害するだけなのに150ポイントもしやがる。よし、まずは種族重視かスキル重視かを決めよう」
影治の中には半々にポイントを分けるという発想はなかった。
特殊属性獲得で回復属性だけは取るつもりだったが、それ以外のポイントは全ぶっぱだ。
一応最後に残されていたアイテムの項目も選んでみたが、文字通りアイテム名らしきものとポイントが表示されるだけだった。
基本装備一式5ポイント、基本アイテム一式3ポイント。
下級装備セット10ポイント、中級装備セット30ポイント、上級装備セット50ポイント。
これらの他にアイテムの種類ごとで、更に項目が幾つか分かれている。
「こんなもんは、実際
中にはエリクシルだとか、若返り薬などといった気になるアイテムもあったのだが、それらはアイテム単体にしてはやたらとポイントが高かった。
そんなものに大事なポイントは振れん、と影治は先ほどの二つの選択肢の考慮を始める。
考えることしばし。
この真っ暗な空間に文字だけが浮かんでいるという状況は、強靭な精神を持つ影治ですら少しずつ蝕んでいた。
肉体というものが感じられない状態でいると、自分の存在が保てなくなるというか、周囲の闇に自分自身が溶けていきそうな感じがするのだ。
途中からそれを自覚した影治は、集中力を保っていられる間にどうにか決断を下した。
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