第42話 十五階

 新宿ダンジョンの十五階を突破した者は、上級探索者と呼ばれることがある。それぐらい難関なのだ。十五階を守るボス、ギガースを倒すことは。


 そもそも、巨人系のモンスターは強い。


 一番弱いジャイアントですら、油断をするとレベル30を超える探索者でもやられてしまうことがある。


 その上のギガースともなれば、パーティーメンバー以外の助っ人を呼んで戦うのがセオリーだ。


 ギガース請負人のような商売をしている人すらいる。


 その十五階のボスに今日、死ぬ死ぬマンチャンネルは挑戦する。


 時間は朝九時四十五分になろうとしていた。久保とは十時にダンジョンの入り口で待ち合わせをしている。



『これで久保君来なかったら笑う』

『やっぱり死ぬ死ぬマンチャンネルはきついです!』

『お母さんに止められました!』

『流石にないっしょ〜』

『久保君は真面目そうだったから大丈夫』



 コメント欄がざわつき始めた頃、久保は駆け足で俺達の前に現れた。


「八幡くん、ギリギリになってごめん! お母さんの病院に寄ってたら遅くなっちゃって」


「まだ十時前だから問題ない」


 久保はスッと息を整え、顔つきを変える。


「今日はチャンスをくれてありがとうございます! よろしくお願いします!!」


 ピシッと頭を下げ、上げた時にはもう戦う男になっていた。


「よし! 行くぞ!」


「ウゥ……!」

「はい……!」


 いよいよダンジョン十五階にチャレンジだ。



#



 転移石の部屋を出ると、今までとは桁違いに大きなボス部屋の扉があった。


 黒く重厚なそれは、挑戦者の訪れを静かにまっている。


 扉に触れた瞬間、戦いは始まってしまう。


「最初は俺が前に出てHPの壁でギガースの攻撃を防ぐ。その間に久保。お前の力を見せてくれ。新宿ダンジョンにソロで潜るぐらいなんだ。レアなスキルを持っているんだろ?」


 ゆっくりと頷く。そして、深く息を吸った。


「じゃあ、開けるぞ!」


 扉に近づき静かに触れると、地響きが起こった。


 低い音を立てながら、中央から二つに割れた扉は横へスライドしていく。


 紅く光る二つの眼がこちらを向いている。


 五メートルを優に超える巨体が俺達を待ち受けていた。


 視聴者の数はもうすぐ十万を超える。いくらギガースが強敵といっても、しばらくは大丈夫な筈だ。


「デカブツが! 偉そうにしてんじゃねぇ!!」


 ボス部屋に駆け込み、右手の金属バットを大きく構えて威嚇する。


 ギガースの顔が歪み、右肩が動いた。


 ──ガチンッ!! と鉄の塊がぶつかったような衝撃がボス部屋の空気を震わせた。


 ギガースの大きな拳が俺の顔の前で止まっている。


「巨人のおっさん……!? 何かした……!?」


 怒りで顔が歪んだ。大砲のような左右の拳が息つく暇もなく飛んでくる。しかし──。


「効かないぞ! まるで効かない!!」


 ──HPの壁は厚い。減ったそばから投げ銭で回復していく。


「久保! 力を見せてみろ……!!」


 舞台は整えたぞ。あとはお前次第だ。


 久保は俺の隣に飛び出し、ギガースと対峙する。チラリとこちらを見ると、指で印を結び始めた。


「破ッ!!」


 久保の身体が青く輝き、それが部屋全体へ広がっていき……。

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