第24話 モフモフ化と……

「今日は新宿ダンジョンの7階に挑戦します!」


 新宿ダンジョンの入り口で、いつものように今日の目標を宣言する。コメント欄を確認すると──。



『おら! 早くモフモフ化しろよ!』

『今日は何になるか楽しみですね!』

『モフモフ化っていうか、着ぐるみ化なんだよなぁ』

『顔だけそのままでマジウケる』

『全然癒されねぇ〜』

『一昨日はパンダ、昨日は犬、今日は何かなぁ〜』



 ──おかしい……。俺達は新宿ダンジョン5階ボスの最短討伐記録を更新し、ガチ攻略勢として注目されている筈だ。それならのリスペクトがあってもいいのではないか?


「ウゥゥゥゥアァァァ……」

「師匠。視聴者が求めているので……」


 グミとマリナがそれとなく促す。


「やっぱりモフモフ化した方がいい?」


「ウゥ!」

「はい!」


 二人にエロい格好させておいて、俺だけ普通というわけにはいかないかぁ……。仕方がない。


「よし、やるかぁ……」


 シャツを脱いで上半身裸になった。


 モフモフ化すると大体、上半身がデカくなるので、着衣のままだと苦しいし、下手すると破ける。


「スキル……【モフモフ化!!】」


 身体が白い光に包まれる。そして──。


「ウプッ!」

「ププッ!」


 二人が笑いを我慢している。


 スマホで自分のチャンネルを見ると、ドローンカメラが白いモフモフを映し出していた。



『羊ダァァ!!』

『めっちゃモフモフwwww』

『羊男がデニム穿いてるのウケるwwww』

『羊男が金属バット持ってるのシュール過ぎる』

『私は可愛いと思いますよ!!』

『新宿ダンジョンの7階ってウェアウルフ出るよね?』

『羊と狼やん』

『死ぬ死ぬマン、やられそ〜』



「うるせえ!! 笑うな!! 可愛いって言え!!」


「師匠……そろそろ行かないと」


 ダンジョン管理人が足を踏み鳴らしていた。「早く行け」と。


「……では、ダンジョンアタック開始です……」




#



「この階から人狼、ウェアウルフが出て来る。今までのモンスターより動きが速く、狡猾だ。気を引き締めるように」


「ウプッ!」

「ププッ!」


「笑うな!」


 羊男の状態だと、何を言っても説得力がない。すぐにでもモフモフ化を解除したいところだが、このスキルの効果は12時間続く。つまり、今日はずっとこのままダンジョン攻略を進めることになるのだ。


「しばらくは俺が先頭に立つ。二人は遊撃だ」


「ウゥ!」

「はい!」


 最近、ダンジョン配信を行っている時は常時5000人を超える視聴者がいる。つまりHP上限は5000以上。俺がタンクを務め、二人がアタッカーを担うフォーメーションが一番リスクが少ない。


 俺が先頭を歩き、三角形を描くように二人はついてくる。その手には薙刀。中距離から攻撃する為だ。



 ゴツゴツした岩の通路をいく。5分も経たないうちに、早くも前方から気配がした。


 地面を蹴る音と、荒い息。これはウェアウルフなのか……?


 二人に合図を送り、待ち構える。もうすぐ来る──。


「助けてくれぇぇー!!」


 うん? 他の探索者か? 鎧に身を包んだ男が走って来た。顔を焦りの表情を浮かべている。


「何事ですか?」


 警戒しながら尋ねる。


「モンスターの異常発生だ! もうすぐ──」


 ワオオオォォォーンン!!


 狼の遠吠えと通路を埋め尽くすような影。ウェアウルフだ。何体いるのか見当もつかない。


「転移石の部屋へ戻るぞ! 撤退だ!」


 慌てて踵を返し、四人で走り始めると──。


「師匠! 前からもウェアウルフがっ!」


 なんだよこれ!


「脇道へ!」


 前後を挟まれ、仕方なく脇道へ。次の階までの正解ルートなら頭に入っているが、この脇道が何処に繋がっているかなんて覚えていない。


「走れぇ!!」


 しかし地図を取り出す暇なんてない! 殿を務めながら、走る走る。


 何度もHPの壁がウェアウルフの攻撃を弾いている。まだ、余裕はあるけれど、何せ敵の数がやばい。


 どうする……? 俺が囮として残るか? しかし、更にウェアウルフが出て来たら……。


 考えがまとまらず、ただ足を前に出す。これから一つでも判断を間違えると、大惨事になりかねない。


 なにか妙案が──。


「師匠っ! 行き止まりです!!」


 マリナの悲痛な叫び。無常にも、道は途絶えている。


 振り返ると、赤い瞳をギラつかせるウェアウルフの群。涎を垂らしながら、ジリジリと距離を詰めて来ている。


「ウゥ……」


 グミが怯えた声を出した。


 カッと胸が熱くなった。俺が何とかするしかない。二人を巻き込んだのは、俺だ。考えろ、考えろ、考えろ!


 きっと何かある筈だ! 俺の手札に何か……!



「一か八か。やってみてもいいか?」


 俺は腰に付けた石像──角野さんに手を伸ばした。

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