第5話

「ただいまー」


 いつものように帰宅すると、家の明かりが消えていた。怪訝に思って、再度大きな声を出す。


「ただーいまー!」


 返答はない。仕方なしに靴を脱ぎ散らかして部屋に上がるも、部屋はしんと静かで冷たく、人の気配がなかった。


「はぁ……?」


 忠は呆然と声を漏らした。そして、次第に怒りの感情が湧き上がってきた。夫が帰宅したというのに、何故出迎えの一つもないのか。

 上着と鞄をソファに放り投げて風呂場へ向かうと、風呂も沸いていない。舌打ちして、スマホを手に取る。

 妻に電話をするが、出ない。メッセージアプリも既読にならない。

 いらいらしたままシャワーのみ済ませ、風呂を出る。


「あ」


 何の準備もせずに入ってしまったので、タオルがない。着替えもない。


「あーもう!!」


 怒鳴り散らすようにしながら、濡れたまま部屋に戻る。手あたり次第に引き出しを開けて、なんとか目当てのものを引っ張り出す。


 ぐぅ、と腹の虫が鳴いて、冷蔵庫を開ける。何もない。

 妻はできるだけ作り置きなどをしなかった。出来立てでないと、忠が文句を言うからだ。

 ぶつぶつと文句を言いながら非常用のカップ麺をすすり、忠はテレビを見ながら酒を飲み、そのままソファで寝落ちした。

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