第6話 記憶の邂逅③ 激突!
「クァーーーーハッハッハ! よくぞここまでたどり着いた!」
大扉を開けて入った四人を待ち受けていたのは腕を組み、仁王立ちならぬまさかのジョ〇ョ立ちで玉座から見下ろすハーデスであった。
ちなみにこのジョ〇ョ立ちは『竜の叡智』でかっこいい立ち方、を検索したところ一番にヒットした情報であった。もちろんここ数百年の間にはない遥か昔、<
二次元表記なら確実にハーデスの後ろに「ドギャーーーーーン」と派手な擬音が踊ることだろう。
「ななななな、何なの、あれ!」
聖女が明らかに狼狽する。
「まさか、こいつが・・・?」
金髪剣士が呟く。
ジョ〇ョ立ちのハーデスがさらに大声を出す。
両腕を天に突き上げ、
「わーーーーれこそはぁーーーーーー!!!!」
いきなりの大声に竦む四人。まさしく竜の咆哮といった感じだが、
ハーデスからすると、自己紹介の途中である。
「空前絶後のーーーーーーーーーーー!!!!」
と言いつつ、両腕を胸の前に降ろし胸筋をアピールするかの如くモストマスキュラーを決める。
「竜種の中の竜種! 竜を愛し、竜に愛された
どうやらハーデスは男であるらしい。しかも漢字の「
「えええ・・・」
もう聖女の口からはエクトプラズムが出そうな勢いである。
「カイザーーーーーードラゴンンンンンンーーーーー!! ハーデス!!!!!」
明らかにアニメなら「ババーン!」との効果音とともに背景にざっぱーんと大波が映るような勢いである。ちなみにポージングはフロントダブルバイセップスでフィニッシュである。
「ええっと、巷で騒がれている竜王ハーデスってことでいいのかな・・・?」
金髪剣士が指を指して問う。
「うむ! 我がハーデスで間違いないぞ! ・・・巷ってなんだ?」
「え~~~~~」
金髪剣士はめんどくさそうに唸る。
「どうでもいいから早くぶっ殺そうぜ! こいつを倒せば俺たちが世界最強なんだろ?」
青髪の大男は担いだ大金槌を地面に叩きつけた。
「カイロン、物騒な事を言わないで! 私たちは世界の平和のために竜王を打倒するのよ!あなたの自己満足のために戦うわけではないのですからね!」
「キツイことばっか言ってんじゃねーよ! 倒しちまえば一緒だろ、そんなもん」
そう言って大金槌を頭上で振り回す青い大男。
「ふむ、世界の平和とな? なかなかに哲学的な事を考えているものよの?
てっきり『我を倒せば世界最強だー!』などと短絡的な思考の持ち主が世に言われる『勇者』とやらの事だとばっかり思っておったが」
顎に手を当てて思案顔になるハーデス。
「ちょっと! アンタのせいで竜王にも馬鹿にされたじゃないの! 脳筋拗らすのもいい加減にしなさいよ!」
もはや聖女のイメージのかけらもなくヒステリックに叫ぶ。
「で、なぜ我を倒すと世界平和につながるのだ? というか、今の時代平和ではないのか?」
まるで今の事態の事をわかっていないような雰囲気で問いかける竜王ハーデス。
「我が『竜の叡智』でも世界平和が恒久に続いた歴史は無かったと言・っ・て・い・る・。だが、戦乱の時代に比べればたとえ霞のごとく消えてしまう一夜の夢のような平和でもいく億倍にも勝ろうというもの。平和はいい、実に。特にカルチャーイノベーションは見逃せぬ! それも食文化とくればもう!
・・・ああ、あま~いあま~いストロベリータルトが食いたくなってきおったわ!」
何やらぶつくさ言い出してよだれを垂らし始める竜王ハーデス。・・・そこに威厳はもうない。
(どういう事・・・? この竜王が本当に世界を征服するために魔族を集め強力な軍隊を形成し、各国の村を襲っているというの・・・? まるで自分が何をしているのかわかってないような・・・)
聖女は考え込んだ。国王直々に討伐依頼を受けた。その時の説明は『凶悪で傍若無人な竜が魔族の頂点に君臨し、人間の国を滅ぼそうとしている』というものだった。今の竜王ハーデスはあまりに受けた説明と印象が違う。
玉座と言えば玉座にも見えるが、この竜王の部屋なる場所は窓もなくあまりにも何もない。見方を変えればまるで牢獄のようにも見える。こんなところで竜王は何をしているのか・・・?
「ねえ、アナタ。普段はここで何をしているの?」
率直に疑問をぶつける聖女。
「はあ? ラスボスに何訳のわかんねーこと聞いてんだ?」
金髪イケメン剣士が顔を顰める。
「普段・・・と言われても。我、ここ百年くらいはゴロゴロ寝ているだけだし」
「「「はあっ?」」」
竜王ハーデスのあまりにと言えばあまりなカミングアウトに勇者たちは理解できないと言った表情で絶句する。・・・赤髪の剣士は無表情のようだが。
勇者たちの反応にまずいと思ったのか、竜王ハーデスは言い訳じみたことを呟いていく。
「いや、我だってゴロゴロしているだけではないのだぞ・・・? ちょっと外を見に行こうかな~って思った時にたまたま眠気が強くなったり、散歩でもしようかな~って思った時に限ってしっぽが痒くなったり」
(典型的なヒキコモリの言い訳だわ・・・!)
聖女は竜王ハーデスが嘘をついていないと感じだ。この竜王、人間にもよくいるダメ男にそっくりなオーラを出している。
「あ、後最近は腰が痛い時もあるな、うん」
先ほど香ばしいほどにジョ〇ョ立ちを決めていたくせにどの口が腰痛いとか言うか! とツッコミのできる人間がいなかったため、竜王ハーデスの腰が痛い発言は見事にスルーされる。
(ならば・・・この竜王をここに押し込めて、魔族軍の実権を握っている者が暗躍しているということ・・・この『竜王』と戦っても益はない!)
ここに来る前から違和感を持っていた聖女。何かがおかしいと気づいたがここへきて確信へと変わる。
聖女は戦闘を止めるべく言葉を紡いだ。
「みんな、待って・・・」
だが、やはり脳筋は空気を読まない。
「あーっ! メンドくせぇ! とりあえず竜王ぶっ倒せば世界最強で王様からの報奨金でがっぽり、その上素材も最高でさらに金持ちになれらぁ! 四の五の言ってねぇで、ぶっ殺す!」
そう叫ぶなり、青髪の大男が大金槌を振り降ろす。
「<
大金槌で地面を叩いた瞬間、衝撃波が発生しハーデスに向かう。
「ちょっと!」
聖女は仲間が話の途中で勝手に先制攻撃を仕掛けたことに苛立ちちと焦りを覚える。だが、
「グァウ!」
ハーデスの咆哮一閃! 衝撃波は一撃でかき消される。
「なっ・・・」
絶句する青髪。そのまま咆哮が四人を威圧する。これぞドラゴンスキルの一つ<
「何やら、盗賊めいた口上も聞いたことだし、我を狙うというならば、少しばかり相手をしようか」
ハーデスはニヤリと笑ったつもりだったが、傍から見れば邪悪な竜が人を食べる前に口を動かした様にしか見えない。威圧も受けた勇者たちに余力のある判断は出来なかった。
「チィッ! カイロン、散開しろ! 固まると一撃でやられるぞ! ネルシア!魔法で防御を頼む!」
「ちょ・・・!」
聖女ネルシアが言葉をかけるより早く三人がハーデスに攻撃を仕掛ける。だがそれを両腕で弾き飛ばすハーデス。
「硬ってーーーー!! どーなってんだ? あの鱗!」
カイロンと呼ばれた青髪の戦士が悪態を突く。
「ではこちらから一つ攻撃してみようか? この程度で消し炭になどなるなよ?」
ニヤリと笑うハーデスの口から炎がちらりと見える。
後ろへ首を振り、振り返ると一気に炎を吐き出す。<
赤髪の剣士と聖女は迫りくる炎から仲間を守るため、魔法障壁を展開する。
「<
「くっ・・・聖母よ、その優しき腕で風を纏わせ給え!<
防御魔法を二種類重ね掛けする。
だがハーデスが放つ<
「うぁっちゃっちゃ!」
青髪の戦士が転げまわる。プスプスと黒い煙を上げているが、それほどのダメージは無い様だ。
赤髪の魔法戦士が唱えた<
四人の勇者達は圧倒的なまでの力の差を感じた。
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