四章 成り上がるふたりと泉の秘密

第27話 チーム契約


 騒動の後、騎士団は更迭こうてつされた。


 迷宮の奥地は基本的に無法となるが、リタイヤや救援要請をした者は、現世の庇護に降ったとみなされ法的な保護が約束される。


 俺と騎士団は迷宮内部で一悶着あったものの、俺が彼らの救援要請を代理で出したことで命は救われたようだ。


 それは彼らの罪が白日のもとに晒されることでもある。

 然るべき措置といえるだろう。



 迷宮は無法地帯ではあっても、現世と繋がる糸は残されているのだ。

 もっとも、俺が救援要請を出さなかったとしても、問題はなかったのだが。


 まあ、慣れ親しんだ迷宮で死なれても後味悪いからな。





 騎士団達が『ちんぽ騎士団』『バッコロフェイス』として、マッド動画にされてしまう中、その裏では俺のチャンネル評価が爆上がりしていた。


『おっさん功績者』

『おっさんは守っていた』

『リコちん守ってくれてありがと♡』


『おっさんの名前ってなんなの?』

『鬼神さん』


『トールちゃんねるって名前だったんか』

『鬼神チャンネルにしたほうがいいぞ』



 俺はアドバイスを受けて、トールちゃんねるから、鬼神チャンネルに変えた。


 コメントでアドバイスを受けるなんて初めてのことだったから、嬉しかった。


 そもそも、いままで誰からも見向きもされなかったから、改善のしようがなかったのだが……。


 改善案には手厳しいものもあったが、受け止めておく。


 手厳しかったとしても、反応をくれるだけで嬉しかったからだ。


 俺は丁寧な返信を心がける。



『様々な意見を頂いた結果、このたび鬼神チャンネルに改めることにしました。心機一転頑張ります。ありがとうございます』



 

 とはいえ、俺は別にいい奴じゃない。

 罪坂のようなふざけた奴が、どこで湧いて出てくるとも限らない。


「なあリコ。これでいいのか? 舐められたりしないかな」

「丁寧すぎるくらいでちょうどいいよ。丁寧な文面をつくるから、配信ではキレ芸が生きるんだよ」


「俺はキレてないが?」

「『オラァァ』とかいって、ハンマーをドリドリする人とか、徒手空拳でドーピングヒューマンオークをワンパンする人が、いまさら何いってんの?」


 普通に闘ってるつもりだったが、キレ芸にみられていたらしい。

 やれやれ。


「いきなり忙しくなったなぁ」

「いってらっしゃい。ご飯つくってるよ」

「ああ。行ってきます」


 あれからリコは俺のアパートに泊まって諸々の手続きをしてくれた。


 罪坂の罪が暴露されたり、騎士団とヤクザとの関係が露呈したことで警視庁が動いたのだ。


 また未開の迷宮の人命救助の件もあり、俺は表彰されることになってしまった。

 騎士団に関しては救援要請を出しただけなのだが……。


 主に100階層のボス、山羊鬼との戦闘で、リコと騎士団の生命を守ったと見なされたらしい。



 警視庁に赴くと、さっそく表彰されてしまった。


『鬼神透龍様。事件に対する勇敢な行動を讃え、ここに表彰状を……』


 客間での簡易的なものだが、感謝状を貰ってしまった。

 生まれてから、表彰されることなんてなかったから、素直に嬉しい。

 この感謝状は引き出しの奥にしまっておくことにしよう。


 アパートに戻りリコにみせると「さっそくアップしよ」とスマホを取り出した。


「ちょ、待てよ。賞状をアップするとか、どんだけだよ?!」

「SNS中毒っていいたいの?」


「そうじゃねーけどさ……」

「文字の部分だけぼかして感謝を伝えるんだよ。鬼神さんのツヅッターでやってあげるよ」


 俺のツヅッターはフォロー500人、フォロワー101人だ。


「うわぁ。普通。なんも動いてないじゃん」

「これで精一杯なんだよ」


「もっと動画とかあげなよ。最低限動画サイトのリンクも張って」

「すげえ疲れるんだよ」


「やってあげるから。もちろん編集も。一緒にやろ?」


 リコは俺のノートPCをつけた。

 凄く遅いPCだからか、リコはいらだっているようだった。


「あーこれじゃあ仕事になんない。新しいのポチろっか。もしくは、ハイスペックを組もう」

「ままま、まて。俺にPCを買ってくれるってことか?」


「悪い? 私は尽くす女なんです」

「普通は立場が逆だろ」


「私はそこらの雑魚女とは違うから。尽くすって決めた人には尽くすんです」


 リコの眼は肝が座っていた。

 確かに俺は女に縁がなく、恨みを募らせてさえいた。


 女というものに偏見さえ抱いている。

 メスというものは、すべてにおいて受動的で、進化心理学的にもイケメン以外には存在を忌避するように遺伝子設計されているのではなかったか?


「あれ? リコ。お前、本当に女か? PC組んでくれるなんて。え?」

「鬼神さん。偏見~! パソコン組んじゃいけないっての? インフルエンサーの努力を舐めないでよね?」


「え、いや。え? パソコンを俺に、買ってくれる?」

「いや?」

「超うれしいけど」


 ちやほやされるのは現実ではイケメンのみ、もしくはラノベ主人公の幻想の中でしかありえないはずだ。


「お前、待て。脳がバグりそうだ」

「あー。確かにアプリを開いたら、鬼神さんの脳がピンクになってるねぇ」


「お前……。勝手に脳アプリを開くなよ」

「こういうアプリには詳しいのにねぇ」


「俺だってやろうと思えばPCくらい組める。金がなかっただけだ」

「何も奢るってわけじゃないよ。これは投資なの」


 リコは単に甘さで動いているわけではないようだった。


「鬼神さんならイケると思ったから、投資してるだけ。こんな女は嫌?」

「……嫌じゃない。むしろわかる話だ」


「私は強さに惚れたけど。ある意味とっても即物的だよ?」

「俺の努力をみてくれているってことだから、嬉しいことだ」


「相性ばっちりじゃん。じゃあ契約ね」

「契約?」


「しばらく私は鬼神さんのマネージャーになる。鬼神さんは私の用心棒になる。そしてふたりで迷宮配信者の高みを目指すの!」


「……大きく出たな。俺はこの〈果て成る水晶の迷宮〉だけで十分だったが」


「世界には、未開の迷宮がたくさんある。三人で配信して稼ぐんだよ」

「三人?」


 俺の布団の枕の下から、妖精メルルがでてきた。


「もしかして、僕のこと忘れてたぁ?」


 アプリの妖精デバイスを媒介に、妖精世界から召喚されて受肉したマジモンの妖精なんだっけか。


 意味の分からん奴だが、まあいいだろう。


「わーったよ。どうせ明日の我が身もわかんねーんだ。やるしかねーよな」


 リコはにんまりと微笑んだ。

 やっぱり女は笑ってる方が良い。


「きっちり、面倒見させて貰いますからね」

「お互い様だ」


「僕もだ!」

「お前は、賑やかし要員だろ」

「ひどーい!」


 配信者パーティとしての契約が成立したのだった。


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