第5話
「いたた…」
頭の痛さで目を覚ました冬夜。
外からは小鳥の囀りが聞こえてきて朝を迎えたのだと伝わってきたが、すぐに勢いよく起き上がって周りを見回した。
そこは自分の部屋では無く全く知らない部屋だったのだ。
(え、ここどこ…というか、俺!昨日慶汰さんとの飲み会後の記憶が全くないんだが!?あれ、どうした!?)
必死に考えたが全く出てこなく、慶汰に対して失礼な事をしたんじゃ…と思うと顔を真っ青にしてすぐに慌て出した。すると隣から「んー…」と声と誰かが動いた音がして、そっちを見ると冬夜は小さく悲鳴をあげてしまった。
まさかの同じベッドで慶汰が寝ていたからだ。
(な、なななななな!!!!???)
「ん…あ、冬夜…起きたのか、はよ」
「お、おはようございます…じゃなくて!何で俺、慶汰さんと同じベッドに!?てかここはいったい!?」
慌てる冬夜と比べて冷静な慶汰はゆっくり起き上がって伸びをしてから口を開いて冬夜の問いかけに答えた。
「ここは俺の家。昨日冬夜めちゃくちゃ飲んで酔っ払って寝ちまったんだよ、家分からねぇから俺の家に連れて来たんだわ、覚えてねぇ?」
「ま、全く覚えてないです…本当に申し訳ありませんでした!!」
勢いよくベッドの上で土下座をする冬夜にすぐに慶汰は無理矢理顔を上げさせておでこにデコピンをしてきた。
「痛い!」
「しゃーねぇよ、俺もお前がそこまで酒に弱いなんて知らなかった訳だし!それよりコーヒー淹れるけど飲むか?」
「あ、え、はい…」
冬夜が答えると慶汰はポンポンと頭を優しく撫でてベッドから下りて寝室から出ていった。
推しの部屋に冬夜は興奮が隠せず、キョロキョロと辺りを見回した。
慶汰の部屋はシンプルであんまり目立った物は置いていないが…机の上に猫の写真集を見かけて冬夜はクスッと笑ってしまった。
(本当に動物が好きなんだな…)
「冬夜ー!リビング来いよー」
「あ、はーい」
リビングの大きなソファーに座りソワソワしていると「ほらよ」と目の前のローテーブルにコーヒーが入ったマグカップを置いてくれて、冬夜はお礼を言った。
すると慶汰も隣に座ってきて、推しと推しの家で一緒にコーヒーを飲むという状況に冬夜の鼓動はドキドキといつもより早まっていた。
「二日酔いとかは平気か?」
「はい、大丈夫です、俺酔っている時に何か失礼な事していませんか?」
そう問い掛けると慶汰の動きがピシッと固まりだんだん顔が赤くなっていくのを確認してしまい、冬夜は慌てて「大丈夫ですか!?」と問い掛けた。
「いや、うん、大丈夫、何にもされてねぇから」
「本当ですか?」
「ああ、だから気にするな!」
力強く言われてしまうとそれ以上は聞けなくなってしまい、冬夜は大人しく引き下がるとコーヒーが入ったマグカップを両手で持って一口飲んだ。
その時だった。
「慶汰ー!鷹汰ー!いるかー!?」
いきなりリビングの扉が開かれ入ってきたのは慶汰達と並ぶくらいイケメンの男性で、冬夜はビクッと驚きで体が跳ね上がってしまった。
イケメンは慶汰と冬夜を交互に見ると真剣な表情で口を開いた。
「お前、男同士で絡みを撮影しているからって…本気で男を好きになるなんて…」
「ちげぇーよ!!友達だ!!友達!!」
「隠さなくていいし、てかお前までスキャンダルを起こすなよ?」
「起こさねぇし人の話を聞けよ!マネージャー!!」
慶汰の言葉でイケメンの正体が慶汰達のマネージャーと分かると冬夜はソファーから下りて、頭を軽く下げるとマネージャーもニッコリ笑って頭を下げてきた。
「ごめん、慶汰は今日この後仕事があってね…ただ隣の部屋の鷹汰の部屋はもぬけの殻だった」
「はぁ!?あいついねぇの!?」
仕事の話をする2人に邪魔かな…と感じた冬夜は荷物を取って帰ろうとしたが…いきなりガシッと腕を捕まれてしまい振り返るとマネージャーに顎を掴まれてじーっと顔を見つめてきた。
慶汰が色々文句を言っていたが、マネージャーは無視して冬夜の隅々まで見るとニヤリと怪しげな笑みを浮かべた。
「なぁ、ちょーっと時間ある?」
「へ…?」
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「この子、めちゃくちゃ素材いいわよー!!」
何故か冬夜は撮影スタジオに来ていた。しかもヘアメイクもされていて慶汰とマネージャーにこの状況を聞こうとしたが…ゴリゴリマッチョのオカマなヘアメイクさんに止められてしまい何も聞けなかった。
そしてやっと解放されると、マネージャーが来て冬夜を見てニッコリ笑った。
「うん、めちゃくちゃ似合ってるじゃん!」
「な、何で俺がモデルを!?」
「鷹汰…あ、慶汰の双子の弟な。連絡がつかなくてよ、その代わりを頼むわ!顔は写さないようにするしメイクや加工でバレないようにするから、もちろん謝礼も出すからよ!」
そう言われたが冬夜は不安しかなかった。
マネージャーに背中を押されてスタジオに入ると、先にヘアメイクを終わらせてカメラマンと話している慶汰とばっちり目が合ってしまった。
「いきなりごめんな、冬夜。巻き込んじまって…」
「い、いえ…大丈夫ですが…俺はどうしたら…?」
「顔は写さねぇから言われた通りのポーズを取ってくれるだけでいいからよ、メインは俺だから、な?」
優しく頭を撫でてくる慶汰の表情は申し訳なさそうな表情をしていて、冬夜は決心すると「分かりました…」と伝えた。
しかし冬夜は甘すぎた!と後悔してしまうのであった。
双子の写真はいつも絡みがある写真でかなり密着をしての撮影だらけだった。
顔が見えないから冬夜は顔や耳を真っ赤にしながら撮影に挑んでいた、チラリと慶汰を見るといつも雑誌や広告などで見ていた顔をしていてドキドキしてしまった。
(俺、今、めちゃくちゃドキドキしてる!大丈夫かな…俺の胸の音聞こえてないよな!?)
「冬夜」
「は、はひ!?」
いきなり声をかけられて声が裏返ってしまうと慶汰からクスクスと笑い声が聞こえて、冬夜は恥ずかしくなってしまった。
「いや、すげぇ緊張してるなって思ってよ」
「そりゃあそうですよ」
「まぁ、撮影だしな」
(それもですが!!慶汰さんとこんな密着しているのが恥ずかしいんです!!)
このままだと色々まずいと感じた冬夜は無心になりながら撮影に励んでいると…カメラマンと偉そうな人が真剣に話しだして、冬夜はきょとんと目を見開き首を傾げた。
すると慶汰だけが呼ばれて待っていると「いや!それは!!」と慌てる慶汰の声が聞こえてきた。
そして冬夜も呼ばれると衝撃的な事を言われてしまった。
「いや、申し訳ないんだけど…キスシーンを撮りたいんだ」
「キ、キ、キスシーーーンンン!!??」
まさかの事に驚いていると慶汰が冬夜を庇う様に前に出て声を上げた。
「いや、鷹汰はともかく!冬夜は一般人ですし男同士のキスなんて」
「でも慶汰くんと鷹汰くんのキスを広告で使いたいと言っていたから…」
カメラマンと偉そうな人の困っている表情と慶汰の申し訳なさそうな表情に冬夜の胸は締め付けられてしまい、少ししてから声をかけた。
「俺、構いませんよ?」
「おお!」「冬夜!?」
頭を何度も下げてお礼を言ってくる2人とは違い、慶汰の表情は辛そうで冬夜は服の裾を掴んでくいくいと引っ張った。
「冬夜…大丈夫か?俺、キスする振りでも…」
「いえ、慶汰さんの写真を楽しみに待っている人もいると思いますので、中途半端なんて出来ませんよ」
(それは俺も…だから…)
撮影を再開すると慶汰の手がゆっくり冬夜の口から上を隠すように頬に触れてゆっくり顔を近づけると触れるくらいの優しい口づけをしてきた。
いつもの写真では想像つかない優しい口づけに冬夜も嬉しそうに口角を上げてしまった。
口が離れると今度は顔の角度を変えてまた触れるだけの口付けをしてきて、冬夜の目はトロンと蕩けだしていた。
「…け、いたさ……」
「っ…!」
口を開いて小さな声で相手の名前を呼ぶと、いきなり腕を掴まれて慶汰の首の後ろで手を組むようにされてしまった。
まるで恋人同士みたいな……。
「はい、いいよ!お疲れ様!慶汰くん!いつもと違って良かったよ!冬夜くんもありがとうね!」
「あ、いえ…」
カメラマンに止められるとすぐに慶汰は確認に行ってしまい、冬夜は慶汰の唇の感触にドキドキしっぱなしだった。
「慶汰、顔真っ赤」
「うっせー…」
マネージャーから指摘をされた慶汰の顔は真っ赤になっていた。
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