最終話

そろそろ進級が近づいてきている春の季節。

凪咲と律はいつも通り保健室に居て2人とも難しそうな表情をしていた。

そんな2人をコーヒーを片手に眺めていた佐野先生は声をかけた。

「なぁ、お前ら何そんなに悩んでるんだ?」

「佐野先生…実は…」

真剣な表情と声色で口を開く凪咲に佐野先生も真剣な表情で聞く姿勢になった。

そしてバッと出されたのは、雑誌の美味しいケーキ特集のページだった。

「次のデート、何処にしようか悩んでいて!」

「こっちのいちごのタルトも、こっちのアップルパイも美味しそうだもんね」

「そんな事かよ!心配した俺が馬鹿だったわ!」

惚気たっぷりの悩みに佐野先生はツッコミを入れた。

こんな感じで凪咲と律は幸せいっぱいな日々を過ごしていたが…1つ不安な部分があった。

それは……


「七条くん!私とお付き合いしてくれませんか!?」

律への告白だった。

文化祭を過ぎてから増えていた律の告白はまだ減っていなく、その度に律は告白を断っていた。

進級してクラスが変わる前に告白する人もいて、今日も律は誰もいない教室でクラスメイトの女子に告白を受けていて、凪咲は廊下で隠れながら待っていた。

すると律から出た答えは……

「ごめん、僕大事な恋人がいるんだ」

まさかの今まで言ってなかった恋人いる宣言に女子はショックを受けて、走って去ってしまう。

すぐに凪咲が教室に入って律に声をかけた。

「律!え、まさかの言っちゃったの!?」

「まぁ、嘘は言っていないからね」

「でも、それ、大丈夫なの!?」

「大丈夫だよ、じゃあ帰ろうか」

手を差し出してくる律に凪咲は少し困惑したが手を掴むと一緒に帰った。


だが次の日になると学校中に律の恋人が誰かという話になり、律は質問責めをされていつも一緒にいる凪咲も質問責めされていた。

「如月さん!七条先輩の恋人って、如月さん!?」

「そういや、如月さんと七条先輩ってキスしてたし…!」

「え、でも、それって男同士ってこと…?」

なんて話が広まっていて、凪咲と律は保健室で向かい合うようにソファーに座り、話し合いを始めた。

「やっぱり、言うべきじゃ無かったってー!!」

「凄い質問責めだったね、1番の候補はやっぱり凪咲だけど。何故か2番目に佐野先生が入ってましたよ」

「おい!俺を巻き込むなよ!!」

律の話にビシッとツッコミを入れる佐野先生だったが、凪咲は笑わずに心配そうな表情をしていた。

「凪咲?」と律が問いかけると凪咲はゆっくり口を開いた。

「僕だって事、話すべきかな…」

そう言うと律はピクっと眉を動かして、勢いよく立ち上がり「それはダメだ」と真剣な声色で伝えてきた。

「何で、てか、律が話すからだよ!?」

「まぁ、確かに僕が悪いけど…あの時みたいに…暁斗くんの時みたいになりたくないんだ」

その言葉に凪咲はハッとしたが、少し考えてから立ち上がると律の隣に座り手を掴んだ。


「僕は話したい。僕達は確かに同性同士だけど…それ以外は普通の恋愛だもん。気持ち悪い!とか知らないよ、本当は隠すべきなんだろうけど…これ以上律に告白してくる人見るの嫌だからね!律は僕のだもん…!」


そう伝えると律はニッコリ笑ってお礼を言うと真剣な表情をした。

「…もし凪咲を傷つける人がいたら言うんだよ?」

「律もだよ、変に正義感持っている奴が居たら言ってね。僕と律を離すなんて出来ないんだから」

そう言い合う2人に佐野先生は口角を上げてコーヒーを飲んだ。


そして次の日。

昼休みになり、律は中庭に何人かの男女に囲まれて質問責めをされていた。

「なぁ、結局誰なんだよ!」

「やっぱり例の1年なの?」

「教えてくださいよ!せんぱーい!」

ちゅーっとストローで紙パックのジュースを飲みながら質問を聞いていた律だったが、ストローから口を離すとゴミ箱に投げ入れてニッコリ笑った。

「紹介するよ、僕の可愛い恋人」

「律ー!!」

凪咲が名前を呼びながら渡り廊下の2階部分から飛び降りると、律はキチンと抱き止めた。

周りはあんぐりとしていたが2人は気にせずに顔を近づけてイチャイチャしていた。

「そう、僕は凪咲と付き合っているよ」

「もし男性同士で…とか言う人がいたら言いますが、僕と律は何言われても離れる気ないですからね」

そう真剣な表情で伝えたが、質問責めしていた男女は「やっぱりかー」「だよねー」と口を開けて言い出して2人はきょとんとした。

「そりゃあお似合いだもんな!お前ら!如月さん可愛いし!七条イケメンだし!美男美女カップルじゃん!」

「いや、この場合美男美男カップルじゃない?男性同士も全然有りだと思うよ!」

「リアルBLってこと?今、そういうドラマとかあるもんね!」

まさかの受け入れられている雰囲気に2人は顔を見合わせると同時に笑い出して、抱きしめ合った。

「なーんだ、心配する必要なかったね!」

「うん、凪咲…ありがとう、愛してるよ」

「!うん、僕も律のこと愛してる!!」

お互いに告白し合う凪咲と律に周りはヒューヒューと茶化しだして、2人は照れたように笑った。

そんな様子を佐野先生は遠くから眺めていた。




可愛い物が好き。可愛い格好が好き。

リボンもスカートもニーハイも大好き。

でも自分はそれを身につけてはならないと言われている。


僕が男の子だからである。


でも、そんな僕をちゃんと受け入れてくれた人達がいた。


その人も同性が好きという周りには受け入れられない悩みを持っていたが…最終的にはちゃんと周りも受け入れてくれた。


僕達の世界はちゃんとここにある


END

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