第12話

放課後になり、凪咲は保健室の机に突っ伏してずっとため息をついていた。

そんな凪咲を見て佐野先生もため息を付くと持っていた雑誌を丸めて頭をポコンと叩いた。

「いったー!!暴力はんたーい!!」

「んなため息ばっかついてるからだろうが!大体嫌なら引き受けなきゃ良かっただろ」

佐野先生の言う通りだった、でも自分が勝手に決めていいのか…もし律もまだ好きだったら…と考えたら凪咲はこうするのが1番だと思った。

そうとは言えず、凪咲はいじいじしていると佐野先生が向かいのソファーに座り、チョコを差し出してきた。

「お前のそれってさ、嫉妬ってやつじゃね?」

「…え!?僕が嫉妬!?」

勢いよく顔を上げて驚いた表情を見せると佐野先生はまたため息をついて、口を開いた。

「そりゃあそうだろう、普通の友人なら別に七条が誰と付き合おうが関係ないだろ」

「……佐野先生は嫉妬したことある?」

「そりゃああるある!岬の奴、周りから狙われているの気付いてなくて俺と同じ様に周りに接するからめちゃくちゃ嫉妬したし、それを言うのは俺としては…すげぇ屈辱だったわ…」

頬を赤らめながら語る佐野先生に凪咲はクスッと笑みを浮かべると、佐野先生も口角を上げて問いかけた。

「お前は?」

「え…?」

「七条がお前に接している様なのを他の人にするのは、いやか?」

凪咲は目を閉じて、今までの律との思い出を振り返っていた。

それを全て他の人にしたら?そう考えたら胸が締め付けられた様に痛くなり、ポロッと涙が流れてきた。

「やだ…律が優しいのとか、周りに知って欲しいけど…僕以外にして欲しくない」

「んじゃ、お前がする事は1つだけだろ」

流れた涙を腕で拭ってニッと笑うと鞄を持って佐野先生に「ありがと!」とお礼を言うと保健室を後にした。

そんな凪咲の背中を見送りながら佐野先生はボソッと「頑張れ」と呟いた。


仲介役を引き受けたから2人が何処で会うのかは知っていた。

凪咲達の高校からも暁斗の通う高校からも近い公園だった。

しかし、その公園はかなり広い為見つかるか分からなかったが…凪咲は走って公園に向かった。

公園に着くと夕日が綺麗に見えて一瞬見惚れそうになったが、すぐに我に返って公園内を見回した。

(ああ、見つからない!上から見よ!!)

高台になってる階段を上がって周りを見回すと、ちょうど下のレンガ道に向かい合う律と暁斗を見かけて、凪咲は急いで走った。


「…そうだったんだね、暁斗くんがバラしたんじゃないんだ…」

「ああ、俺は今でもお前が好きだ、律…俺と…「待ってぇー!!」

手を伸ばそうとしていた暁斗と律の間に入って、凪咲は勢いよく律に抱き付いた。

いきなりの事に2人は驚き、特に抱き付かれた律は何が起きているのか分からず固まっていたが、すぐに自分の状況に気付くと「凪咲!?」と驚いた声を上げた。


「暁斗さんがまだ律の事好きなのは知ってる!律だって誤解が解けたら暁斗さんとヨリを戻すのもわかってるけど!!けど…律が誰かのモノになるのは僕が嫌だよ!!」


涙を流しながら必死に伝えた凪咲の言葉に律は力強く凪咲を抱き締めると耳元で「そうなの?」と優しく問い掛けてきて、凪咲はコクコクと頷いた。

「そっか…」

「律…」

「暁斗くん、ありがとう…でもごめんね。今の僕には君の気持ちは受け止められないよ…僕はもう君には恋愛感情はないからね」

凪咲を抱き締めながら真剣な表情で伝えてきた律に暁斗は少し辛そうな表情をしたが、すぐにニッコリ笑うと頷いた。

「ありがとうな、会ってくれて」

「こちらこそありがとう、暁斗くんは僕のずっと憧れだから」

「そう言ってもらえて嬉しいよ、じゃあな」

暁斗が去って行ったが凪咲はぐすぐすと泣き続けていて、律は嬉しそうに笑いながら落ち着くまでずっと抱きしめていた。


「ごめんにゃしゃいぃ~」

何とか落ち着いた凪咲はベンチに座りながら律から受け取った冷えたハンカチを泣き腫らした目に当てていた。

「いいよ、謝る必要はないよ」

「でも僕のせいで…律と暁斗さんの復縁の邪魔しちゃった」

しゅんと落ち込む凪咲を見てきょとんと目を見開いた律だったが、すぐにフッと吹き出してそのまま笑い出し凪咲は顔を真っ赤にして怒りだした。

「ちょっと!?笑うこと無くない!?」

「いや、でも凪咲が来なくても僕は暁斗くんと復縁する気はなかったよ」

「え!?どうして!?」

身を乗り出して問いかけたが律は目線を逸らしてからまた凪咲の方に目線を戻すとニッコリ笑って「内緒」と伝えてきて、凪咲は納得出来なかった。

しつこく問い掛けたが全く答えなく凪咲は唸ったが律が手を差し出してきて、手を掴むとそのまま手を繋いで一緒に帰った。

「そういえば凪咲は今、好きな人いないのかい?」

「え!?僕は…特別な人がいるもん…律がいるからいいよ」

そう答えると律は「そっか」とだけ伝えて先を歩いた。

凪咲はそれ以上何も言わずにただ着いていくだけだった。


だから気づかなかった。

律が少し辛そうな表情をしている事に…。

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