第9話

夏休みが終わり、凪咲達の高校は9月の後半に行われる文化祭の準備に追われていた。

「はぁー…疲れた」

保健室の机に突っ伏す凪咲とソファーにキチンと座る律を見て保健室の主である佐野先生がため息をついてから問いかけた。

「お前らクラスで何すんの?」

「僕はお化け屋敷!律は?」

「僕はメイド執事喫茶だよ」

執事という単語を聞いた瞬間、凪咲の頭の中に執事姿の律が出てきてボソッと「似合いそ…」と呟いてしまった。

小さく呟いた予定だったが佐野先生の耳に伝わっていたらしく「確かに」と返されて凪咲はガバッと顔を上げた。

「佐野先生もそう思うよね!?」

「まぁ、七条は身長高いしイケメンだしな、何でもやりそう」

「凪咲も先生も…僕だって出来ないことありますからね?」

「例えば?」

食い気味に凪咲が聞くと律は考えだしたが全く出てこなかった。

「佐野先生、これは何でも出来るパターンだよね」

「そのパターンだな、という訳でお前ら2人にこういうのはどうだ?」

そう言って佐野先生が出してきたチラシを律が受け取り2人で眺めた。そこに書いてあったのは…


『1番可愛くて、かっこよくて、お似合いのペアは誰だ!第XX回ミス・ミスターコンテスト!!』


「いやいや!待って、僕男なんだけど!?」

すぐに凪咲は佐野先生に向かってツッコミを入れたが、佐野先生は無視をして説明をしだした。

「さっき生徒会長が来て、お前ら2人に出て欲しいって言ってきたんだよ」

まさかの生徒会長直々の指名で2人は顔を見合わせて同時に首を傾げた。

凪咲も律も生徒会長とは知り合いではない為、自分達が何故選ばれたのか分からずとりあえず生徒会室に向かうことにした。


生徒会室に入るとおっとり系の美人な女性生徒会長夏目菜々なつめななが2人を出迎えてくれた。

「あの佐野先生から聞きました、僕と律…先輩に出て欲しいって…」

「ええ、男の子だけど可愛らしい如月さんといつも一緒にいる七条くんに是非と」

「……僕、好奇な目で見られるのは嫌なんで辞退したいんですが」

そう言うと夏目会長は目を見開いて驚き、その後眉尻を下げて悲しげな表情をしながら謝ってきた。

「ごめんなさい、別に私は貴方達を笑い者にする為にお願いした訳じゃないわ」

「なら、何で…」


「普通に貴方達が男性だから同性同士だからとか関係なしにお似合いだと思ったからよ」


夏目会長の言葉に2人は顔を見合わせて、また夏目会長の方を向いた。

「気を悪くしちゃったのならごめんなさいね、この話は白紙にして構わないわ」

「……律…」

凪咲が律の腕を掴んでクイクイと引っ張ると律は凪咲の方を向いて、すぐに口角を上げて笑った。

「僕は凪咲と思い出が作れるならいいよ。ただ凪咲が嫌な思いをする事はしたくないかな」

「…僕も律と思い出は作りたいし、何なら優勝目指すくらいやってやろうよ」

2人の言葉を聞いて夏目会長はパァっと明るくなり「それじゃあ…」と聞いてきた為、2人は夏目会長の方を向いて答えた。

「出ますよ、僕達」

「はい、楽しい思い出作りの為に」

「ありがとう、2人とも。そしたら早速だけど中庭で撮影会していいかしら?」

撮影会という単語に2人は首を傾げたが、廊下でスタンバイしていた生徒会メンバーが凪咲と律の腕を掴むと、中庭に連行されてしまった。


中庭で2人の写真撮影をされて、終わるとすぐに凪咲は夏目会長を捕まえて問いかけた。

「何ですか、この写真!」

「参加者一覧のポスター用なのー。これを飾って皆さんに来てもらうからね」

ニコニコと笑いながら話す夏目会長に凪咲はすぐに律に近付き腕に抱き着いて耳元で囁き問い掛けた。

「大丈夫?凄い目立っちゃうけど…律平気?」

「僕は…構わないよ、凪咲とだからね」

まさかの言葉に凪咲は頬を赤らめて照れてしまい、その瞬間にカシャッとシャッターの音が聞こえ音のした方を見ると夏目会長がカメラマンに指示を出していた。

「ちょっ!?消してください!!」

「あらー、如月さん可愛いのにー」

「会長、良ければ後で凪咲の写真くれますか?」

「いいわよー」

「ちょっと、律!?」

そんな風に盛り上がりながら撮影が終わり、2人は保健室に戻ると向かい合うようにソファーに座り、相談しだした。

相談の内容はミス・ミスターコンテストの衣装についてだった。

「何か着たい衣装あるかい?」

「メイドと執事?でも普通だし…チャイナ服とか…」

うーんと唸りながら悩んでいると仕事をしていた佐野先生がボソッと呟いた。

「ウェディングは?」

「「え!?」」

提案内容に2人は同時に驚き、佐野先生の方を見たがパソコンに向かっていてそれ以上は何も話さず、2人は顔を見合わせると律が先に口を開いた。

「ウェディング…だって、どうする?」

「……僕がドレス作っていい?」

「構わないよ、何かあったら手伝うから」


こうして2人はウェディングで出る事になり、文化祭までクラスの事とコンテストの事で目まぐるしい忙しさになってしまった。

そんな時だった。

「ねぇ、アンタ…1年の如月だよね」

渡り廊下を走って通り過ぎようとしていた凪咲に声をかけてきたのは3年の先輩達だった。

凄く重たい雰囲気に、少し考えてから「…何ですか?」と答えると3年の先輩達に囲まれてしまった。

「アンタさ、男のくせに何、ミス・ミスターコンテストに出ようとしてんの?」

「ウチの坂下と山上カップルの3連覇が掛かっているんだから邪魔すんなよ」

「棄権しろよ、今すぐに」

同じコンテストに出るカップルの応援をしているらしく、凪咲は溜め息をついて先輩達を睨んだ。

すると先輩達は一瞬怯えた様に後ろに下がった。

「正々堂々と戦えば勝てますよね?僕は男の子だし2連覇しているんですから、こんな脅しなんてまるでこうしないと勝てないみたいな感じなんですか?それに僕は律先輩との思い出作りをしなくちゃなんで、先輩らに構ってられないので失礼します!」

はっきり言うと凪咲はその場を後にした。


それがあんな問題に発展するなんて、凪咲はまだ知る由もなかった…。

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