第5話 飲み会に出会いを求めるのは間違っているだろうか……?

 俺は後悔した。


「くそっ……出会いなんてクソくらいだ」


 飲み会の帰り道、俺は怨嗟の息をまき散らしていた。楽しそうに話しながら繁華街を歩く女子グループや、二次会だと盛り上がる大学生たち、さらには気持ち悪そうに路地裏に駆け込む酔っ払いのオッサンにさえ冷めた視線を送り、恨めしそうに見つめる。

 そして完全に負のオーラ発生器となった俺はひとり寂しく心のノートにこう書き記す。


 本日の戦果、女子とまったく話せず惨敗。


 インテリぶって涼しく構えていたのがいけなかったのか。それとも常にタブレット端末をもって時折、あらかじめ開いていた外国為替FXチャートを見て「グラフが下がり始めたが、想定内だ……俺のデータによると……」と呟いていたのがいけなかったのか、女子が寄ってこなくなっていた。


 仕事ができそうなインテリ男子ってモテるって聞いたのになんだこの結果は……! モテるどころか話しかけてももらえなくなったぞ、こんなの嘘じゃん……。


 やはり偽物だとバレてしまったのか? 確かに外国為替なんて一ミリもわからないし、俺のデータとか呟いておいてスカスカ脳みそだったさ。でも見た目だけなら結構再現できてたのに、なぜだ……?


 釣りだって疑似餌で魚が釣れるのに、疑似インテリ男子じゃ全然ヒットしなかった。これはおかしい。現実がバグってるとしか思えない。

 いやそもそも店が悪かった。お洒落なバー風の内装で、店内は薄暗く、間接照明で棚に飾られた高そうなお酒を照らしていたりしている個室だった。最悪だ。こんなのレベルが高すぎてガクブルだったさ……! だって普通の居酒屋くらいしか行ったことねーし……。


 そいうわけで最後の方は手持ち無沙汰でソシャゲの周回をやってた。


『あれれー? 綾上くん、飲んでなくな~い♪』


 お洒落な雰囲気をぶち壊すウェイ系男子にお酒を注がれたり。


『あたし、物静かでクールな人がタイプかなー……え? 綾上くん? ないないない、あれちょっとジャンルが違うもん。クールはクールでも痛々しくて心に『来る』タイプでしょ』


 クールとクーるを上手く掛け合わせてみせた同じ大学の女子に笑われたり。


『なぁ、綾上……あいつらばっかペアになって腹が立たないか? ……そうだ、二次会はカラオケにしてとんでもない下ネタソング一緒に歌ってやろうぜ、ボカロにあったよな? あれで甘い雰囲気なんてぶっ壊してやろう』


 隣にいたアニメオタクの男子にリア充撲滅作戦を伝えられたり。


『あれれー? 綾上くん、まだまだ飲んでなくな~い♪』


 色々あったが、甘いイベントはなかった。


 元々仲がいい男女で談笑する空間。そこに俺の居場所はなかったが、おいウェイ系男子、なに一周して戻ってきてるんだ? お前はお酒を注ぐ係か? 普通こういう奴は女子にお酒を注いで、その流れでチャラチャラしたトークを交えながら狙った子に食らいつくものだろ……?


 そんなことを思っていたら、暇人と勘違いされて放置されたあげく、幹事にみたいな役を押し付けられて二次会の用意だ。

 あのオタク男子の言う通りカラオケ付きのパーティルームを予約してやって俺は、用事があるからこれで、と言って彼らと別れた。


 そして今に至るが、これで良かったんだ。



(次回に続く)


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