隠した恋の探し方

趾下薄板

第1話

俺には好きな人がいる。同じクラスの委員長の花崎 薫だ。


花崎はきれいな亜麻色の髪をしており、それを背中まで伸ばしている。大きな目は丸くややたれ下がっており、大き目の口はその快活な笑顔を見せた時にとてもよく映える。綺麗な肌に整った顔、社交的な性格も相まって学校全体でもとても人気がある。


「やあやあ川野、おはよう!今日もいい天気だね!」


そんな学校のアイドルは、いつも通学路ですれ違う時にこうやって肩をたたいて挨拶をしていく。


「……おはよう」


緊張しながらもそれを悟らせまいと冷静を装い挨拶を返す。俺の挨拶を見届け、満足そうな顔をしてから他のクラスメイト達にも同じように話しかけていく。


叩かれた肩に残る手の温もりと柔らかさにどぎまぎしながらも、平静を保とうと深呼吸する。


ちなみにモテない男子のことごとくがこの挨拶の犠牲者となっており、勘違いして告白した人数は小学生から数えて3桁に到達するのではないだろうか。


小学校の時から同じクラスだった自分は、これが誰に対してもそうだということを知っているから思いとどまれている。しかし初対面でこれをやられるとひとたまりもないだろう。






男女分け隔てなく話しかける花崎ではあるが、クラスの中ではほぼ同性の友達とつるんでいる。これだけ告白されても彼氏ができたと聞いたこともなく、恋愛に興味がないとさえ思える。


そんな中下心が見え見えの男子たちが近づくと、花崎の友人たちが威嚇するのだ。


「こっちは楽しく話してんだから、どうでもいい話題で話の腰を折ってくんなよ」


体は小さいくせに気が強い栗崎蜜柑が先ほど退けた男子生徒の姿が離れていくのを見届けてから言う。栗崎はボブカットの黒髪に実年齢より大分幼く見える顔立ち、140㎝の身長も相まって中学生のようである。


「モテる女は違いますなー」


ニヤニヤしながら花崎をからかう矢崎緑も一定の層からはとてもモテている。髪は茶色に染めており、薄くだが化粧もしている。スタイルが良くておしゃれに気を使っており、大人っぽい雰囲気を持っている。


「あははー。気持ちは嬉しいんだけどねー」


「あんたにも原因はあるけどね。気がないなら突き放すくらいしなきゃ」


そういって苦笑いする花崎に対してショートカットで健康的に日焼けしている山本紗江があきれ顔で答える。山本は陸上部に所属しており、細く引き締まったスタイルをしている。姉御肌な性格から、男性よりも女性に人気があるらしい。


「そんなことできないよ。みんな普通に友達として仲良くなりたいもん」


「でたよ、博愛主義者」


そんな姦しい会話がすぐ近くでなされているなか、俺は小学校からの友人である日向昭と犠牲者を憐れんでいた。


「みんな一度は通る道だよな。小学生の頃を思い出して恥ずかしくなってくるよ」


昭は小学5年の頃に引っ越してきたのだが、花崎のにこやか挨拶攻撃により見事陥落した経緯を持つ。


無駄に行動力があったために、転校してきた次の日には靴箱の中にラブレターを入れ、よりにもよって昼休みに体育館に呼び出す暴挙に出たのだ。


明らかに不自然に教室から出ていく昭と、理由を言いよどみながらも友達に断りを入れどこかへ向かう花崎を見て、クラスのほぼ全員が状況を察したのだ。


そして大勢から隠れて見物されているとも知らず、体育館のど真ん中で告白してあっさりと振られ、膝から崩れ落ちたその姿はしばらくクラスメイトのからかいの種となった。小学生は容赦がないのだ。


「まさか転校2日目でやらかすとは思わなかったよなぁ」


「だってよぉ、率先して話しかけてきて、放課後ずっと学校を案内してくれて、俺のこと好きなのかなって思うじゃん」


「にしたって次の日すぐには無いわ。行動力お化け」


くだらないことを話しているとチャイムがなって担任が入ってくる。


それぞれが急いで自分の席に戻っていく。花崎は右斜め前の席だ。


後ろから花崎を眺めていると、今朝触れた肩がまた少し暖かくなるような、そんな気がした。


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