295. なんでやねん

「まだか!?」

「もうそろそろだそうですわ!」


 森の中を魔物を無視して白銀のドラゴンが飛ぶ。

 かなり暗く周囲の状況確認もままならないが、なんとか神域の民の指示で魔王が封印されていたという場所を目指せている。

 復活した魔王が他の場所へ移動している懸念もあるが、今は魔王封印場所へ向かうしかない状況だ。


 途中、明らかに他の魔物とは比較にならない魔力を纏う魔王の配下と思しき存在もいたが、全て素通りだ。たまに遠距離攻撃も飛んでくるがエフィリス殿の結界で防げている。流石は伝説にもなっている聖王国の結界だ。


「前方に凄まじい魔力ですじゃ!」

「避けろドラゴン!」

「グァ!」


 これまでと比較にならない黒く太い魔力の奔流がすぐ横を抜けていく。

 演習場で妖精付侍女の攻撃魔術を1度見たことがあるが、あれを黒くして威圧感を増したような感じだ。黒い奔流が通り過ぎた後には木の1本すら残っていなかった。


 それが放たれたと思われる場所には、人がいた。

 枯れ果てた大きな樹を背に男が立っている。普通の男だ。まだ少年と言っても良い年齢か。南の常夏の国々には肌も髪も黒い人種がいると聞く。が、その男は肌は黒くはないのに黒髪黒目。

 そしてその周囲には……、神域の民達の亡骸が大量に横たわっていた。


「ムニ、ムニムニ!」

「ムニムニ! ムニムニムニッ!?」

 仲間の亡骸を見たからだろうか、神域の民が騒ぎ始める。


「あの、あの大きな樹が魔王を封印していた聖樹様だそうです!」

「分かった」


「気を付けなされ。あの男、火でも水でも風でも土でも光でもない不思議な魔力を纏っておりますぞ」



「XXXxxXXXXXXXXxx」


 慎重にドラゴンを地に下ろすと、樹の前の男が何か語り掛けてきた。しかし言葉が分からない。


「……魔王が封印されたのは1000年以上も前、おそらく今は使われていない古代言語と思われますじゃ」


「じゃぁ、やっぱりあのヒョロっとした男が魔王なのか? 人だぞ? 山よりでかい黒い獣とかって伝承じゃなかったか?」


「そのような伝承もありましたな。しかし文献によってその大きさは様々なのです。それこそ成人男性よりも小さいとされる文献もあれば、殿下がおっしゃられたように山のように大きいと書かれた文献もありました。そのなりも獣とされるものから、人型であるとされるものまで……」


「人型って……、まんま人じゃないか」

 人型の魔物って言ったら、普通オークとかそういう手足が2本ずつで両足で立つ割にはとても人には見えないってヤツらを想像するだろ。あんな普通の少年みたいな魔物聞いたこともないぞ?



 男がいくらか発言した後、妖精が答えた。妖精も男が使う言語を使えるのか。流石叡智の妖精様様だな。最初から教えておいてくれよ。


「おい、妖精さまよ。あの男は何と言ってるんだ?」


「……」

 妖精は難しい顔で何かを考え込んでいるようだ。いつもポケッとした顔ばかりしていると思っていたが、流石にこの状況ではキリッとした表情もできるらしい。


「……妖精様は答えてくださる気はなさそうですね」

 カティヌールの姫さんがそう残念がる。


「まぁ、いつものことだ」

 妖精が俺達に何か伝えるなんてことはほとんどない。


 エフィリス殿は不安そうにしながらも結界に集中しているのか発言はしない。まぁ、エフィリス殿は兄貴かティレスか専属侍女以外の相手にはほとんど喋らないからな。



「グァ」

 しばらく妖精と魔王らしき人物の会話が続いた後、突然ドラゴンが小さく鳴いた。


「ムニ、ムニムニ」

「あの、ドラゴンが背負われている聖樹様が、ドラゴンの言葉を通訳してくれると……」

「む? どういうことだ? いや、ドラゴンは何と」


「えーと……、なんでやねん、と」


「……なんでやねん?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る