282. 大いなる魔術の発展
「おお、素晴らしい! これ程の魔力!」
「高位魔術師数人分以上の魔力だ!」
「それどころか、生命力換算でも成人男性3人分はいくんじゃないか!?」
膨大な魔力を溜めた魔道具を見て同志達が喜びの声をあげる。
ファルシアンの砦に潜入した神域の民は見事に聖女の魔力を奪ってきた。この魔力があれば強大な魔物を召喚することが可能だろう。それで目障りなファルシアンは滅びるだろう。
神域の民の特攻に合わせて我々も動き、ファルシアンを牽制して脱出してきた神域の民と魔道具を回収して離脱したのだ。
かなり強引な手段となってしまったが、聖王国の結界に対して魔力抽出の魔道具が有効であることは分かっていた。この魔道具を使って帝国に聖王国内の工作をやらせていたのだから。光の玉の入手は叶わなかったが、今となってはどうでも良い。
魔力奪取がここまで強引な手段となったのは、ファルシアン攻めの直前でカティヌールが我々を裏切ったからだ。あの愚王、どうやったのか分からないが我々の洗脳を解除できたらしい。何故どいつもこいつも我々の邪魔をするのか理解できん。
「ムニムニ……、ムニ……」
「何と言っている?」
「は、はい……。人形に不意を突かれたと……。妖精の? 人形? を、戦闘中に投げ付けられたとか……」
ふむ。
神域の民は片足を斬り落とされている。これではもう満足に戦えないだろう。
妖精やドラゴン、それに"精霊剣士"も"妖魔の侍女"も居ないと言うのに、どうやって神域の民を退けたのかと思っていたが、またもや妖精人形か。
ファルシアン西部を攻めた際にも我が師が妖精の人形で不意を突かれたと言う。同じ手ばかり使う馬鹿共め。
「ふん!」
――ザシュ
「ムニッ!?」
魔術を放ち、神域の民の残っていた両手足を切り落とす。私程になればこれしきの魔術に詠唱など必要ないのだ。
「ムニムニ……! ムニムニ……!」
「ひ! ひぃっ! ……そ、そろそろ! 私を解放してくだされ! 私の仕事は通訳だけの筈だったじゃないか! 話が違う!」
「この男を捕らえろ。コイツも贄にする」
「ひぃぃっ!?」
「ムニ! ムニムニムニムニッ!」
神域の民をここで切り捨てるならこの通訳ももういらんだろう。
召喚の贄はカティヌールから拉致してきた雑用係だけの予定だったが、こいつらも追加すればより確実だ。
特に神域の民は、師が召喚したドラゴンの生息域の出身。召喚対象と縁のあるモノを贄にすれば成功率が跳ね上がるからな。
そしてこの膨大な魔力。師はその命をもってなんとかドラゴンを召喚させたが、ここまで条件が揃えば術者の犠牲なしに召喚を成功させられるに違いない。
今こそ私は師を超える魔術師となるのだ。
「ひぃぃ! ど、どうして私が! こんなことに!」
「喚くな。喜べ、お前も大いなる魔術の発展に貢献できるのだから。よし、儀式を始めるぞ! そのでかい槌はどけておけ。邪魔だ」
「ハッ!」
ファルシアンの砦の結界はまだ消えている。聖女の魔力が尽きたからだろう。おそらく結界がすぐに再展開されることはあるまい。
結界が消えた今、ファルシアンが最も危惧することはカティヌールに攻め入られることに違いない。カティヌールが我々を裏切ってファルシアン側につこうとしていることなど、ファルシアンはまだ知らない筈なのだからな。
であれば少人数のこちらに注力することもあるまい。ファルシアンが気付く前に儀式を終わらせることができる。
「ムニ!? ムニムニムニ! ムニムニムニムニムニムニ!」
同志達が儀式のために召喚陣を描いた大きな敷物を広げると、それを見た神域の民が再び騒ぎ始めた。ムニムニと五月蠅い奴だ。
「構うな。儀式を始めるぞ」
召喚陣の上に贄の男共を置き、それを挟んで対角線の位置に6人ずつ計12人の同志が配置につく。この召喚儀式を模したボードゲームの駒の初期配置と同じ配置だ。そうして右回りに12人の同志が魔力を込めて歩き出す。それに合わせて私が魔道具に溜められた膨大な魔力を注いでいく……。
儀式に参加していない他の同志達は、儀式を妨害されないように周囲を警戒している。エネルギアの精鋭魔術師部隊だ。これで儀式が邪魔されるなんてことはないだろう。
「ムニムニムニ! ムニムニムニムニムニムニ!」
「ひぃ! ドラゴンを召喚したのはアンタ達だったのか!? 神域の民がそう言っているぞ!」
「それがどうした」
今更気付いてももう何もできまい。
「ムニムニ! ムニムニムニムニムニムニ! ムニムニムニ!」
「な!? 魔王が復活するだって!? 聖域にこれ以上魔術干渉されると今度こそ魔王が復活すると言っている! アンタ達何をしようとしているんだ!?」
「何をしようと、だと? ふん、分かり切ったこと。大いなる魔術の発展だ!」
くくく……、これで我々の……。
いや、私の時代が始まる!
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