243. 結果報告
「――という結果となりました」
「それはそれは、苦労をかけましたね」
王太子殿下の報告に対して王妃殿下が満足そうに頷かれます。
現在は、聖王国から再びドラゴンで王国に帰還しました後、王太子殿下、王女殿下、およびエフィリス様が国王陛下と王妃殿下へご報告を差し上げられている最中でございます。それに加え、聖王国へ同行したという理由から一介の侍女である
他に同行されました帝国第2皇子は既に地下牢へ戻され、先々代聖女クルスリーデ様は聖王国に残られました。
そして、ちょうどよく居合わせられました冒険者ギルドのサブマスター殿もご参加されておられます。
報告内容から既に問題解決後であることが分かりご自身に火の粉が及ばないと思われておられるのか、国王陛下の御前であるにも関わらず非常に緩み切った表情をされておられますね。ですが、サブマスター殿は王妃様に気に入られているご様子。この場に居合わせておられることそのものが厄介事だと愚考致しますよ?
妖精様もこの場には居られますが、この場では1度も発言されておられません。
皆様はお気付きになられておられないようですが、どうやら妖精様は道中の
誰かに目線を合わせられますと、慌てたように妖精様の視線がさまよいます。この反応は、お勉強の最中に逃亡を謀られておられる状況と似ておりますね。
妖精様の態度がおかしくなられたのは、聖王国で今代聖女様が連行されましたときでございましょう。
今代聖女様が連行される決定打となりました妖精様の「監禁」というお言葉。おそらく妖精様は「仲良し」と発言されたかったのではないでしょうか。妖精様のお言葉は発音がお悪く、一部の発言は意味が異なって聞こえてしまうのです。
妖精様は聖王国の皆様と仲良くされたかっただけなのではないでしょうか。下手をしますと、妖精様は聖王国が存続の危機だったことにすら気付かれておられないかもしれません。聖王国には遊びに行かれただけの感覚で、そのためボードゲームなどの遊び道具を持参されていたのでは。
そうして観光気分で訪れた聖王国にて、ご自身の発言がきっかけとなり今代聖女様が連行されました状況を目の当たりにされ、流石にご自身の認識違いにお気付きになられたのでしょうね。
しかし、様々な思い違いはありましたものの事は全て丸く収まったのです。妖精様も隠しておかれたいご様子。ここで
「聖王国との話し合いが拗れたのは、聖王国側が次代の聖女の確保を心配したからのようです。まさか今代聖女と
王太子殿下がそう発言されました。
聖王国の聖女のような重要な家系では、通常複数の分家を設けて血が絶えないように気を配るものでございます。しかしながら聖王国では、聖女の血を一子相伝に近い形で継承してこられたようなのです。
ですが、聖女分家を不用意に増やすのも得策ではないのかもしれません。立場は違えど聖女文化のある国は他にもありますが、とある国では多くの聖女候補から誰を聖女とするのか代替わりの度に醜い争いを起こしているという話もあるのですから。
「申し訳ありません……。事前にお伝えできていれば良かったのですが、何分私にはそれが普通だと思っておりまして、他国から見ると異常だとは思わずお伝えしておくべき事だとの認識がなかったのです……」
「ああ、すまない。エフィリスを責めた訳ではないのだよ。我々も想定しておくべき事柄だった」
今代聖女様が連行されました後に、王国は聖王国に条件の追加および補足を行いました。
「今代聖女の出産の許可、および聖王太子と今代聖女の婚姻を強制、ですか。準備不足の会談だったにしては、良い落としどころですね」
「ありがとうございます」
「聖王国にとっては破格の条件でしょうが、冷え切った当の2人には酷でしょう。魔女と呼ばれた破天荒な娘と生涯寄り添うというのは、聖王太子にも良い贖罪となるかもしれませんね」
「今代聖女の罪の公表も不要と伝えました。国の存続に関わる光の玉を聖女が割ったなどと民衆に知られれば暴動が起きかねませんからね。表向きには聖王国の結界は一時的に消えたものの、それは代替わり直後の新聖女が不調だっただけということになるようですね。光の玉は割れておらず、王国が聖王国に新しい光の玉を提供したという話も表向きにはなかった話となります」
「それでよろしい。我が王国が新しく光の玉を用意できるなどと他国に知られますと大変なことになりますからね。それに、国内からも王国にも結界を張るべきだと馬鹿な意見が出てきそうですし」
心配です。
妖精様は聖王国の現状をお知りになられておられなかったと思われます。今この場の会話も半分以上ご理解されておられないでしょう。既に飽きておられるご様子でございますし……。
ではどうして、現状をご存知でない妖精様が光の玉をお作りになられたのか。お遊びのためにお作りなられたに違いありません。もし
人類の至宝、神話の遺物などといった数多くの異名を持つ光の玉、その上位互換がその辺りに適当に転がされている状況など眩暈がしてしまいます。
ああ、妖精様。もう1度、あまりモノをお作りになられないよう進言させて頂いた方が宜しいのでしょうか……。
いえ、
「それで、今代聖女は今後問題なくやっていけそうでしたか?」
「はい」
王妃様の問いにエフィリス様がお答えになられます。
「マリーも憑き物が落ちたように素直になりました。……自分の罪が暴露されて憔悴しているだけかもしれませんが、母も
「それは良かったです。それから、実家の方も待遇が改善されるのですって?」
「はい。実家はマリーという罪人を出してしまいましたが、聖王家にも非があったのは事実。今回の件で結界の存続がいかに危ういものかも明るみに出ましたし、そういった対策も含めて聖女家系であるラーバレスト家は今後待遇が向上するようです。父にも不満はあるようでしたが、
「そうですか。聖王国とは今後良い関係を築いていきたいですからね。聖王国と話し合うべき事柄はまだまだありますが、まずは一件落着でしょう」
「お母様。お言葉ですが、聖王国は我々王国を蛮国、蛮国と呼んでいました。あれでは良い関係など築けないのではないでしょうか」
王女殿下が苦言を申し出されます。確かに、聖王国の我々王国に対する態度は傲慢なところがございましたが……。
「すみませんティレス様。近年のリアセイント聖王国はサルディア帝国との関係を強化してきていました。しかも、ファルシアン王国攻めに積極的だった第2皇子派が相手です。その際に、ファルシアン王国は蛮族が集まる蛮国だという意識を帝国から植え付けられていたようでして……」
「おのれ帝国め……、ここにきて未だ王国の邪魔をするだなんて」
「これティレス、口が悪いですよ。それに我が王国の文化レベルが回復したのは全て妖精様のおかげ。食料不足だった一時期は酷い有様だったのは事実です。自力で回復できた訳ではないのですから、妖精様に感謝の気持ちを持ちなさいな」
「はい……」
「それに、どうせアーランドとエフィリスの結婚式に聖王国の要人を呼ぶのです。王国の現状を見れば自国との差を嫌でも認識するでしょう」
「なるほど、それは楽しみです。お兄様、2度と蛮国と呼べないよう素晴らしい結婚式にしましょうね」
「あはは……、ティレスの結婚式じゃないんだよ?」
――おんじぁああああああああッ!
ズドーン!!
突然響いた絶叫と轟音。
「ひゃぁ!?
「何事ですか!?」
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