215. 人選
「で、聖王国内の密偵へ向けた書状を、エネルギアに居る魔術師団長に渡してきたって?」
全く、やっぱアホなのか
聖王国は東だってのに、いきなり西にぶっ飛んで行くもんだから皆唖然としてたんだぜ。それでエネルギア首都まで3日で往復? マジでめちゃくちゃな奴だよ。
「いえお兄様、妖精様には何か深い考えがあるに違いありません」
出た、妖精様には思惑がある論調。ティレスは妖精を信奉し過ぎてるからな……。
「……そうですね。クレスト、これを読んでみなさい」
そう言って母上が魔術師団長殿の返信を渡してくる。
「……転移の魔道具が3つに透明化の魔道具? エネルギアの間諜が使ってたヤツか。つまりどういうことです?」
母上を見返してもすまし顔だ。
周りを見渡して会議室に集まった奴らの反応を窺っても明確な反応は返ってこない。まぁ仕方ないか、何せこの手紙はまだ母上と俺しか読んでいないからな。
「妖精様はこう主張されているのです。我々自身で確認してくるべきだと」
母上はそう言うが、それには致命的な問題があるんじゃないか?
「しかし母上、この転移の魔道具、今は魔力が全く充填されてないそうですよ? 転移できるまで魔力を充填するのに、エネルギアでは人1人の命を犠牲にしていたらしいではないですか。ファルシアン王国でも同様の犠牲を払えと?」
そう問いながら、俺は手紙を兄上にまわす。
俺の発言に周りもざわつきだした。それはそうだろう。エネルギアはあくどいことを平然とやっていたとは聞いていたが、まさか転移1回で別の誰かが1人死んでいたとは驚きだ。
「あの……、もしかすると、なのですけど……」
兄上の婚約者である元聖女がチラリとティレスの方を見ながらおどおどと発言する。そんな彼女を兄上が、読み終えた手紙をティレスに手渡しながら微笑ましそうに見つめていた。
「私とティレス王女殿下なら、人の命を犠牲にせずともその魔道具に込める魔力が足りるかもしれません」
その発言に、手紙を読もうと顔を下げていたティレスが勢いよく顔を上げる。少し見ない間にティレスもだいぶ雰囲気が変わったよな。前はもっとネガティブだった気がするんだが、ずいぶんと明るくなったように見える。良いことだ。
「そうです! 私は妖精様から多くの魔力を頂いたのです! 妖精様はこれを予見されていたのですね!」
出た、妖精様のお見通し! 本当にあの
まぁ、とりあえず今はそういうことにしておこうか。その方が早く話が進みそうだしな。
「転移の魔道具は3つだ。込める魔力次第で1つの魔道具でも複数回転移できるらしいが、何回分充填できそうなんだ?」
「それは……、やってみないと分かりませんが、平均的な成人1人の命で1回と考えると、私とティレス王女殿下で3回分にはなりますかと……」
「ふむ……」
「ほぅ……」
元聖女の発言を受け会議室内の皆が思考を巡らせる。
3回か……。この2人で人3人分の生命力の魔力を持ってるってのか。すげぇな……。
しかし3回だと、1人で行ったとしても往復に2回必要だ。誰か1人に聖王国に行かせて状況を確認させ、無事に戻り状況を報告させる必要がある。状況をある程度把握していて、1人でも不測の事態に対応できる能力があるとなると……。
「明日、例の冒険者を呼んできなさい」
母上が命を下した。
ま、そうなるよなぁ。他に人選が思いつかん。
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