212. 目フェチさん

 夜通し飛んで森を抜けた。抜けた先でいくつか町を見つけたんだけど、おじゃーさん一行はまだ見つけられてない。


 地図は私を中心にそこそこ遠くまでオートマッピングされるから、森を抜けても街道を見失うなんてことはなかった。それは良かったんだけど、おじゃーさんの安否がわからない今ずっと心がモヤモヤしっぱなしだよ。


 それはそうと、森を抜けてからなんだか雰囲気が変わった気がする。町並みは同じなんだけど、なんて言うか文化が違うって言うのかな。少なくても宗教観は違うっぽい。

 教会はあんまり変わらないんだけど、どうも追加で羊を崇めてるような気がする。大きめの町には羊と女の子のでかい像もあったし、土着の神様なのか聖獣なのか、とにかく羊が特別な存在らしいってことはわかった。


 うーん、文化が違うってことは国が変わった? もしかしてあの森が国境だったのかも。でも検問所みたいなのはなかったよね。さすがに検問所が雪で埋まってたなんてことはないと思うんだけど。森が天然の境界扱いなのかもしれないな。

 日本みたいな島国だと海の向こうが外国だってわかりやすいんだけど、陸続きの国境って普通どんな感じなんだろ。まぁ、今は良いか。



 もうすぐ夜になりそうだけど、今はまだ明るい。それに雪も止んだから昨日と違って結構遠くまで見渡せて、進行方向にはかなり大きな街が見えてきている。いつもいるお城の街とか、海に行く途中で寄ったでかい橋のある城塞都市くらい大きいね。だけどなんか不穏な感じだよ。だって、街の向こう側が隕石でも落ちたのかってくらいボッコボコになってるもん。


 全速力の私は結構速いからね、街が見えてから割とすぐに街にたどり着けた。いつも通り城壁は空から越えて街に入る。良かった、街中は普通だ。戦争でもやってて街中もボロボロだったらどうしようかと思ってたけど、そんな心配はいらなかったね。


 これまでの町と同じように主要そうな建物を見て回って、大人数で行動してそうな人たちを探してみる。でもこれは……、ちょっとよくわからないな。

 ここまで大きな街だと、結構な人数の団体さんもそれなりにいるっぽい。その団体さんがおじゃーさん一行なのかどうか、ちょっと判断が難しいって。

 でもお城の騎士と同じ鎧の人がいないな。どの団体もおじゃーさん一行の人たちじゃない気がする。



 あと調べてないのは、街の真ん中の1番豪華なあのお屋敷か。って、うわー! すごい歓迎ムードだ!

 街で騒ぎになりすぎたから妖精が来たってことがこのお屋敷の人たちにも伝わってたんだね、たぶん。正門から正面玄関まで伸びる道の両脇にメイドさんや執事さんがズラーッって並んでて、私が近づいた瞬間に一斉に頭を下げられた。すご。


 ヤバい。すごいお金持ちになった気分だ。おかえりなさいませご主人様って言いそうなメイド隊の間を進んでいくと、お屋敷の玄関にご主人様っぽいおじ様とその子どもらしい女の子が立っていた。


 ってかあの子、目フェチさんじゃん! 銀髪ちゃんと見習いメイドちゃんとでお茶会してた目が大好きなお嬢様だ! うわ懐かし。

 ってことは、ここはまだ外国じゃなくて国内だった? それとも目フェチさんは外国人さんで、お茶会のときは国外旅行中だったのかな?


 それから、ご主人様の方もなんか見覚えがあるぞ……、いつどこで見たんだったっけ……。まぁ別にいっか、思い出せなくても。思い出せないってことは重要じゃないってことだもんね。



 その後、私はごしゅおじと目フェチさんにめちゃくちゃ歓待されてしまった。もうほとんどパーティー状態だ。しかもなんか、みんなからめっちゃ拝まれる。そう言えばお茶会のときも目フェチに拝まれたっけ。あの時は目フェチさんが妖精みたいなファンシーなものが好きなだけなのかと思ってたけど、この街の人たち共通の文化的習性なのかもしれないな。


 おじゃーさん宛の手紙はちょっと邪魔だけど、とりあえず私の周りに適当に浮かしておく。どこかに置いといて誰かに見られたらヤバそうだもんね。仮にも王族の手紙なんだし。


 ごしゅおじがパーティーの途中で鳥籠に入った鳥を連れてきた。なんかめっちゃ笑顔で頭が緑で体がピンクの鳥をアピールしてくる。なるほど、ペットが好きすぎて来客全員にペット自慢をしたがるタイプなのね。この鳥はインコかな? それともオウム? しゃべる? ……しゃべらなさそうだね。


 ってか自分と同じくらいのサイズの鳥を間近でじっと見ると結構怖いな。足とかほとんど恐竜じゃんこれ。目とかすごいでかいし吸い込まれそうだ。あ、結構モフモフ、手が羽に埋まる。ひょわ~。


 む、今度は目フェチさんが何か持ってきた……、って! それ、私人形じゃん!

 うわ、等身大の自分の人形を抱きしめてニコニコされるのってなんかすごい複雑な気分。2体目の私人形を見たときから、もしかすると量産されてるかもってうっすら覚悟してたけど、やっぱり量産されてたのか……。おのれ、おじリーダーめ。



 パーティーは結構長かった。その後も色々ちやほやしてくれている。

 うーん、歓待はありがたい。食事もおいしかった。だけど、やっぱり心のモヤモヤが引っかかって素直に楽しめないな……。結局おじゃーさん一行はこの街にもいないっぽいし、安否が不明のままは気持ち悪すぎる。


 おじゃーさんの行方を知っているかこの館の人たちに訊こうとも思ったんだけど、誤解なく訊きだせる自信がない。しゃべれるようになったって言ってもまだ単語を並べて言うことしかできないし、わからない単語も多い。さらに私っておじゃーさんの名前を知らないんだよね。名前もわからない相手の行き先を訊ねるのは難易度高いって。似顔絵を描くという案も却下だよ。クッキー程度の絵なら描けるけど、似顔絵を誰かわかるくらい上手く描くなんてムリすぎる。


 もう夜になるからとりあえず今日はここに泊めてもらって、明日朝1番で出発しよう。昨日今日は徹夜で森を抜けたから、もうすごく眠い。ふへへ、今夜は人間サイズのふかふかベッドを独り占め、ベッドの大海原だ。うひょー!


 んじゃ、おやすみなさいっと。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る