116. 船旅

 ざっぱざっぱ、ちゃっぷちゃっぷ。私は今、船で河を下っている。水は結構きたない。下水垂れ流しっぽいから当たり前なんだろうけど、濁ってる上に臭い。飲み水には絶対使えないね。



 鳥籠メイドさんと見習いメイドちゃん。他には騎士っぽい人が6人。騎士っぽい人のうち1人は女性だ。毎回騎士っぽい騎士っぽいと言うのも長い。もう騎士で良いか。君たちは騎士だ。おめでとう!


 それから南に行ったときも一緒だった御者のおじさんに、誰か知らないおじさん。人間が10人に、私という妖精が1匹。さらに馬が8頭。


 馬車ごと船に乗った。まるでフェリーだよ。フェリーほどは大きくないんだけど、そこそこ大きい帆船だ。よく見れば木製なのに、黒塗り金縁で重厚感がある。お城の旗と同じマークが帆に描かれているから、もしかするとお城所有の船なのかもしれないね。


 自分たち以外はたぶん全員船員で、お客さんはいない。貸し切りだ。でも乗組員はかなり多いんだよね。最初わからなかったけど、どうもオールを手漕ぎする要員っぽい。


 船の中層に並べられたオールと、そのオールを外に出すための穴があった。河を上るときは、その穴からオールを出してみんなで漕ぐんだろう。


 驚いたことに船員の1人は魔法使いだった。見た目はモリモリマッチョで魔法使いっぽくないんだけど、風魔法を使う。後方の甲板でいきなり仁王立ちになり両手を上げたときは何事かと思ったけど、魔法の風を帆に当てて船のスピードを上げ始めたんだよ。すご。


 そのときは、この国の帆船は一般的に風魔法が利用されているのかと思ったけど、どうもそうじゃないっぽい。行き交う他の船をいくら観察しても魔法を使ってる感じはしなかった。お城の船だからこそできる力業なのかもね。どうもこの世界は、魔法を使える人が思ったより少ないみたいだし。


 船の一番下は天井が低く、倉庫っぽかった。何かの道具がいっぱい並べられている。この床を隔ててすぐ下が河の水だと思うと変な感じがするね。


 その一層上の大部分も倉庫で、こっちは天井が高い。そこには食料が大量に積んであった。船員で消費するには明らかに多すぎるから、たぶん運搬してるだけだと思う。食料輸送に私が付き合っているのか、私の旅行のついでに食料輸送しているのか、どっちだろね。


 その層の残りは馬と馬車。一頭毎に区画が区切られ並んでいる。私が近付くとみんな顔を上げてくれた。今回は顔なじみの馬ばかりで警戒はされていないよ。むしろ前足掻き掻きでこっち来いと言われるくらいだ。馬で遊ぼうかと思ったけど、騎士が1人見張ってるね。やめとこ。



 お昼に出された食事はちゃんと私サイズで作られていた。一緒に来ていた知らないおじさんは私専属のコックさんだったのだ。ぶっとい指でちっこい料理を作ってる様は、素直にすごかったよ。


 私専用に小さい食器が用意されていたのは知ってたけど、実は私専用に調理器具も新調されていたらしい。お肉を小さく切るための小さめの包丁とか、ちっこい肉片をお皿に並べるためのピンセットみたいな道具とか、ちっこい料理にソースを垂らすための化粧道具みたいな筆とか、それらを収容する専用のケースとか、よく揃えたなぁって思う。VIP扱いに恐縮しちゃうね。昼食美味しかったです、ごちそうさま。



 さて、午前中に船内探索も終えたし午後はどうしようかと思っていると、鳥籠メイドさんが私に対して絵本の読み聞かせを始めた。もしかして文字を教えようとしている? 勉強は嫌なんだけど……。まぁ、こっちの物語がどんなのか興味はあるし、聞いてみるか……。


 頑張って聞いていたけど、知らない言語で話される物語を聞くのは思ったより苦痛だった。鳥籠メイドさんが読み上げる音声と、今までなんとなく聞いてた言葉の傾向、描かれている絵などから内容を推測するのに、頭をフル回転させないとダメなのだ。妖精になってから初めてこんなに頭を使ったかもしれないって。


 座って聞いてたのも悪かったんだと思う。浮いてれば良かった……。



 船酔いした、オエッ。


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