047. 妖精
おー、来た来た。あの逆流、ひっさしぶりに見るぜ。
俺たち冒険者は今、ほとんどがこの逆流対策に駆り出されている。本来は騎士団の仕事なんだが、今は居ねぇらしいからな。
つっても、対策なんて前日にはほとんど終わってんだ。船を引っ張ったりと昨日まではすっげぇ大変だったが、今日から数日は見回りだけで報酬がもらえるボーナスみたいなもんだ。
「お願い、お願いします! 兄さんを助けて!!」
「なんだぁ? なんでここにガキがいやがる!? おーい、兄貴ぃ!」
なんだなんだ、騒がしくしやがって。同じパーティーの弟分たちが騒ぎ出した。
「どうした、勝手に持ち場離れんじゃねぇぞ……って、おいおいおい、ダンカンとこの2番目じゃねぇか」
なんでこんなとこにダンカンの息子が居やがんだ。ダンカンも今日は子どもを連れてきてなかった筈だ。門は封鎖されてるんじゃねぇのか? ダンカンとこのは3兄弟だったんじゃなかったか? コイツ1人か?
「お願いします! 兄さんが河に! 助けてください!!」
「はぁ!? お前、ダンカンとこの1番目が流されたってことか!?」
おいおいおい、やべーじゃねぇか。河を見てるだけで良い楽な仕事だと思ってたっつうのによ!
「どこだ?」
「あそこ! あそこに!!」
「あそこ……? あー……?」
「いた! 兄貴、あれだ!」
弟分の1人が指さす。
「かーっ、もう波に飲まれてんじゃねぇか! もうほとんど見えねぇ」
あれは……、キツイな。
「兄貴ぃ、ありゃもう駄目じゃないですかねぇ……」
「そんなっ!」
「バカてめー、まだ何もやってねぇだろ! とりあえずマニュアル通りだ、投げるぞ!!」
やる前から諦めやがって。なんのために俺たちは金までもらってんだって話だ! 俺はとりあえず、こういった場合の対処として教えられていたとおり、先端に浮きが付いたロープをガキに向かって投げる!
「駄目だ! 次のわたせ! あとお前、他の奴ら呼んでこい!」
1本目は失敗だ。弟分の1人を応援要請に向かわせた。
2本目、3本目と俺はどんどんロープを投げる。その間に残った弟分たちが失敗したロープを回収して次投に備えた。
クソ! ガキに届いちゃいるんだが、もうあのガキ意識ねぇな……。
「おい2番目の、お前ダンカン呼んでこい。今なら第4ドックあたりに居っからよ」
「兄さんは……、兄はどうですか!?」
「あー、いや……」
正直もう、無理だろ。
「あっ、兄貴ぃ! あれ! あれ!」
すると突然、弟分たちが何やら空を指さして騒ぎだす。なんだぁ?
「おい、ありゃぁ……、あんときの妖精か?」
ちょっと前にギルドに現れた妖精だ。あんときは、ちょっと金儲けに捕まえてやろうと軽い気持ちで手を出したが、えらい目にあった。
「妖精? 妖精! 妖精さん!! 兄さんを! 兄さんを助けて!」
おいおいおい、何言ってやがる。妖精が人助けだって?
「大丈夫、妖精さんは人を浮かして空を飛ばすことができるんだ! 妖精さんはボクたちの友達なんだ!」
「はぁ? お前それ……」
「うおおおお!? 兄貴ッ! すげぇですぜアレ! うおおおお!」
「おいおいおい、マジですっげぇじゃねぇか!」
妖精は河に飛び込んで猛烈な勢いで泳ぎだす! 妖精って泳げたんだな!
「おい、確かに妖精はガキに向かってるみたいだ!」
流されてるガキは波に揉まれて、あっちに行ったりこっちに行ったり見えなくなったりと複雑に動き回っているが、妖精は確実にそれを追っていた。
「おおおお、行け! そこだ!」
「がんばれ! がんばれ!」
気付けば俺達のまわりにはギャラリーが集まって来ていた。
だが……、ああ、沈んだ。ガキが見えなくなっちまった! 妖精もそれを追って見えなくなる。
「どうだ、どうなったんだ……?」
「ああ……、兄さん……」
みんな固唾を飲んで見守る。
「おいっ、私の息子が河に流されたって!? 本当なのか!? ……って、カイン!」
ようやくダンカンが来たか……。でもまぁ、この状況はなぁ。
「うおおおおお!?」
「わああああっ!」
歓声が上がる。
見れば妖精がガキを掴んで河から真上に飛び上がって来た!
「やった、やりやがった! あの妖精すげぇっ!!」
「はっはぁ! おれぁ信じてたぜぇ!」
「妖精様ばんざい! ばんざーい!」
喜んでるところ悪ぃが、まだ助かったわけじゃねぇ……。
あのガキ、流されてからかなりの時間が経ってた、生きてるかは分かんねぇ。例え生きてたとしても、今後普通に生きてくことは難しいだろう。
あー、手足は付いてるな。変な方向に曲がったりもしてねぇ……。って、おいおいおい、マジかよ! あのガキこっちに手を振りやがった!
マジか。こんなハッピーエンド、そんな都合よく起こるもんなんだな。
こりゃぁもう、妖精様に足を向けて寝られねぇぜ!
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