第5話 夜のおかずを共有しちゃう系妹
「あ、お兄ちゃん」
「夏美……」
俺が高校から帰宅して、自室に入るとそこには妹の夏美がいた。
夏美は制服姿のまま、お腹に何かを抱えるようにして立っていた。
なんだか少し嫌な予感がする。
そう思って、その箱がなんであるか覗こうとすると、夏美は焦ったように顔を赤らめた。そして、片手で手を横に振って何かを否定するような手ぶりをした。
「ち、違うからね! 今日はお兄ちゃんのベッドでしてないし、お兄ちゃんの枕に変なこととかもしてないから!」
「いや、別にそんな心配はしてな……今日は?」
今夏美の奴とんでもないことを口走らなかったか?
俺のベッドの上でする? 枕に変なこと?
だめだ、夏美の性事情をしてしまった手前、妹が俺のベッドの上ではしたないことをしている想像が止まらなくなる。
そんなことはない。さすがにそこまではやっていないはずだ。
今日はと言ったのだって何かの言い間違いだ。……いったい、何の言い間違いだと言うのだろうか。
俺が変な思考のドツボにハマろうとしていると、夏美は不思議そうな顔でこちらを覗き込んでいた。
そんな純情そうな目でこちらを見ないでくれ。俺の脳内での想像とのギャップでさらに妄想が止まらなくなるから。
「あ、そうだった。お兄ちゃん、少しだけこれ借りるね! 一週間くらい借りてもいいかな?」
「ああ、もう勝手に持って行ってくれ」
「うん! ありがとうね、お兄ちゃん!」
夏美は俺にそう告げると、嬉しそうに俺の部屋から出ていった。
俺のベッドの上で如何わしいことをする夏美の妄想を早くやめさせるためにも、夏美に部屋から出て言ってもらう必要があったのだ。
夏美が何を持ち出したのかろくに見ないで了解をしてしまったが、別に大したものではないだろう。ていうか、夏美が喜ぶような物がこの部屋にあっただろうか。
長方形の厚い箱に入った物。それでいて、何かアニメのような絵柄が描かれていて、まるでその中にDVDでも入っていそうなーー。
そこまで考えて、俺は体が固まったように動かなくなった。あの箱の大きさであの形状……。
俺は急いでいつも隠しておいてある場所を確認した。すると、ちょうど一本分の箱がなくなっている。そして、ご丁寧に俺のノートPCもなくなってるじゃないか。
俺は急いで自室を出ると、ノックもしないで夏美の部屋の扉を勢いよく開けた。
「夏美!」
「え?」
夏美の部屋の机の上には、俺のノートPCが開かれており、その画面には『お兄ちゃん、両手の使用を禁止します!』というアダルトPCゲームの起動画面が表示されていた。
そして、その画面を正面にして夏美が制服のスカートに手をかけていた。今からスカートを下ろそうとしていたのだろう。その手はファスナーの位置にあった。
「あ、いや、違うんだ夏美。別に、着替えを覗こうとしたわけではなくてだな」
「お、お兄ちゃん。……うん、そうだよね」
夏美はそう言うと、恥ずかしそうに顔を赤らめた。ファスナーに伸ばしていた手を止めると、夏美はこちらに振り返ってもじもじとし始めた。
「えっちなゲームは貸してやるから、俺の前でしろってことだよね? うん。お兄ちゃんは、私の恥ずかしがるところを見て、興奮するタイプだもんね。は、恥ずかしいけど私頑張るね! あ、想像しただけでびちゃびちゃになってーー」
「座れ夏美! 説教してやる!」
何をどうしたらそんな捉え方ができるんだ。どうしたら、この状況でそんな熱い視線をこちらに向けられるんだ。
「えへへっ、お兄ちゃんってそっちもイケるタイプなんだ。どうしよう、お股が、」
「……もう黙って座てくれ」
お股の位置を直す夏美を目前にして、俺は頭を抱えてしまった。
正直、ここまでとは思わなかったぞ。いつか普通の兄妹として会話ができるようにする。そんなのは夢のまた夢のような気がしてきた。
「あ、お兄ちゃん座るならこれに座って」
「いや、これって夏美の枕なんじゃないのか?」
「いいから、それに座って。それ以外に座っちゃだめだから」
夏美から座るように渡されたものは、普段夏美が寝るときに使用している枕だった。
さすがに枕に座るわけにはいかないと思いながら、夏美に厳重にそこに座るように言われて、俺はそこに腰かけた。
夏美の満足そうな目が少し気になる所ではある。
「えーと、何から話そうか。まず、俺がそのゲームを買ったのは偶然で、別に妹物が好きなわけではないということから話し始めよう」
「ううん、そんなことないよ。だって、お兄ちゃんの部屋にあるえっちなゲームって妹ヒロインが必ずいるし」
「ぐ、偶然だ」
「ううん、そんなことないよ。だって、お兄ちゃんの部屋にあるラノベもエッチな漫画も妹物ばっかだもん」
くそっ、なんで俺の妹は俺の性事情についてこんなに詳しいんだ!
「……今のお兄ちゃんの気持ちわかるか?」
「妹に辱められて興奮してる?」
「なぜ初めに思いつくのがそんなことなんだ、本当に」
俺は脱力するように首をだりと垂らしてしまった。妹に俺が妹にえっちなことをするゲームや漫画が好きだとバレたのだ。恥ずかしさと、いたたまれない気持ちで力だって抜けてしまう。
そうだ。俺は妹物のエロゲやエロマンガが好きなのだ。でも、俺はフィクションと現実をごっちゃにしたりはしない。夏美と二次元の妹は別物である。
それでも、俺を性的に見ているという可愛い妹がいれば、なんとも思わない訳もないわけで。
俺がどれだけの苦労を強いられているか、お分かりいただけただろうか。
というか、夏美は俺が二次元とはいえ妹にそんな感情を向けていることについて、どう思っているのだう。
聞いてみたいが聞いてはならないパンドラの箱。きっと、どんな回答を聞いても俺の自制心が揺らぐ気がしたので、俺はその言葉を呑み込んだ。
「………つまり、何が言いたいかと言うとだな。こうやって、人に性癖がバレるのは恥ずかしいんだ。だから、――」
「だから、性癖を共有すれば恥ずかしさもなくなるし、お互いに楽しめるってことだね! 分かったよ!」
「え、なんでそうなるの?」
夏美は勝手に納得すると、すくっと立ち上がってクローゼットを開けると俺に手招きをした。俺が夏美のクローゼットを覗き込むと、そこにはエロマンガとえっちなゲームがいくつか収納されていた。
この妹、どやってこの手の物を収集したのか。そのやり口については互いに口を出さないことにしよう。
「え、これって妹専門エロマンガ家の妹妹先生の作品じゃん、こっちには『お兄ちゃん、両手の使用を禁止します!2』がある」
「うん、買っちゃった。こうやって共有すれば二人でたくさんの兄妹物を楽しめるね! 盲点だったよ、さすがお兄ちゃん!」
「そう、だな。うん」
俺が前から探していた妹妹先生のエロマンガ。それを貸してくれると言うのならば、ここは兄が折れてやるのもやぶさかではない。
うん、お小遣いは有限。兄妹仲良く共有した方が、互いにハッピーだ。
「えへへっ、私がどんな物を使ってしてるかバレちゃうんだね。……あ、やばい、びちゃびちゃにになっちゃった」
だから今回ばかりは、夏美のお股の状態には目を瞑ることにした。
……なんか少し関係が悪化していないか?
俺が夏美から借りたエロマンガには、やけにしっかりと折り目が付けられたページがあった。
なるほど、な。俺は妹の性事情にまた一歩、近づいたような気がした。
俺と同じ所を使おうおうとしていたのは、俺達が兄妹だからだろうか。
そんなことを考えてどう感じたのか、ここで書き記すのはやめておこう。
いや、本当に。
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