ツンデレ妹改め、お股をぐちゅぐちゅ系妹! ~改めて酷くなるって、なんだよ!~

荒井竜馬

第1話 お股ぐちゅぐちゅ系妹

俺の名前は吉見春馬。平凡な高校一年生である。そんな俺にも、一つだけ他の人から羨ましがられることがある。


 それは可愛い妹がいることだ。黒髪のボブショートで、子猫のような庇護欲を掻き立てる可愛らしい容姿をしている。


 中学二年生にしては、女性らしい体つきをしているし、明るい性格をしているから、クラスでも人気があるらしい。


 そう、外面はいいのだ。この妹は。


「近づかないで」


 それなのに、なんで俺に対してはそんなに冷たい目を向けるのだろう。警戒心は本物の猫のそれだ。


 吉見夏美。この妹は俺が半径1メートルに入ることを決して許さない。廊下をすれ違う時でさえ、この反応だ。半径だぞ? どれだけ、普通の家庭でそのソーシャルディスタンスを維持し続えるのが大変だろうか。


 一体、俺が何をしたというのだろう。


 小学生のころまでは俺にべったりだった。そして、中学に上がったタイミングで少しずつ距離を取るようになり、今では『近づかないで』『話しかけてこないで』『匂いさせないで』と言ってくる始末。


 匂いしないではさすがに無理だろう。俺だって生物なのだ。体臭の一つくらいはあるよ。


 そして、また今も妹である夏美は俺と廊下で連れ違うだけなのに、強い拒絶の反応を示していた。きっと睨みつけるような目は、近づいたら殺すとでも言いたげなほど鋭いものだった。


 いや、ただ廊下をすれ違うだけだぞ? 半径1メートル以上は近づくなというのは無理があるだろう。


 この場合は、毎回俺が自分の部屋まで戻り、夏美が廊下を通り過ぎるのを待つしかなかった。


 けど、もうこんな生活にもうんざりしていた。妹の代わりに我慢をするばかりでは、兄のプライドという物が守れない。


 もはや地に落ちた気もする兄のプライド。それを拾い上げるのは今なのかもしれない。


 俺はそんな考えの元、夏美がいる方に一歩踏み出した。そんな俺の態度を見て、夏美は一歩下がったようだった。顔には戸惑いの色が見える。


 そうだ、廊下ですれ違いたくないのなら夏美が引けばいい。ただそれだけのことだった。


「な、なに?」


「なにじゃないだろ? そんなに俺とすれ違いたくないのなら、お前が部屋にでも引っ込めよ」


 俺はそう言いながら、夏美の半径1メートル以内に足を踏み入れた。その瞬間、夏美は怒りでもしたのか顔を一気に赤くした。感情の整理が上手く追いつかないのか、その場に立ち尽くしている。


 そんな夏美の態度が新鮮で少しテンションが上がっていた。いつも気を遣ってあげていた妹様よりも有利な立ち位置にいる。そんな気がして、俺は気を良くしていた。


「ほらほら、お兄様のお通りだぞ」


 俺はそう言うと、妹の肩に触れて少しだけ押しやった。しかし、その瞬間、夏美は俺の手をぱちんと強く跳ねのけた。


「触らないで!!」


「いっつ……。おい、何も叩くことーー」


「……触らないで」


「な、夏美?」


 どうやら様子が可笑しい。


 夏美はわなわなと震えると、こちらに一層強く睨むような視線を向けてきた。顔は真っ赤になっており、その瞳には涙が浮かんでいた。


 ただ触れただけ、それがそんなに嫌だったのか。


 思春期の妹相手に配慮の欠けた行動を取ってしまったかもしれない。俺はそう思って、弾かれた手をそっと下した。


「夏美、ごめーー」


「触らないでよ! お兄ちゃんに触られると、お股がぐちゅぐちゅになっちゃうから、触らないで!!!」


「そうだよな、俺に触られるとーーん? 今なんて言った?」


 夏美は俺にそう言い残すと、俺をその場に置いて走って階段を下っていた。


「え? お股が? え?」


 聞き間違いのような言葉を残して、夏美は俺の元から去っていった。


 聞き間違い、だよな?


 そんな疑問を誰も解決してくれるはずはなく、俺は一人廊下に残されたのだった。


 俺を嫌っていたはずの妹との距離が、一歩だけ近づいた気がした。


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