無実の罪を着せられ処刑された聖騎士、首なしの騎士《デュラハン》に転生し復讐を誓う。 ~死体をアンデッドに変えるチートスキルを手に入れたので、不死者の兵団を作って国盗りすることにしました~

三日月猫@剣聖メイド3巻12月25日発売

序章

第1話 戦場を駆ける、大盾の騎士



「――――――――――ロクス兵隊長ッッ!!」


「分かっている!!!!」



 地面を蹴り上げ、大盾を持った騎士は戦場を疾走する。


 騎士が向かう先、そこには角の生えた巨魁オーガと、幼い少女の姿があった。


 体長三メートルはあろうその巨大な化け物は、白く濁った瞳を嬉々として細め、涎をまき散らしながら目の前にいる獲物――――尻もちを付いて座り込む少女へと、容赦なく石の巨剣を振り降ろしていく。


 あと数秒もすれば、彼女は石の巨剣で斬り裂かれ、真っ二つの肉片と化してしまうことだろう。


 騎士はその光景にギリッと歯を噛み締めると、地面を蹴り上げる足に力を込めて、全速力で戦場を駆け抜けていく。


 そして彼は少女の前へと躍り出ると、彼女を守るべく、大盾を構えた。


「ッ!!!!」


 石の巨剣を迎え撃つのは、鷹と双剣の文様が描かれた騎士の大盾。


 ギィィィンと盛大な音を鳴らして、剣と盾は火花を散らして衝突する。


 その衝撃に一瞬顔を歪めるが、騎士は微動だにしない。


 そして彼は腕に力を込めると、横薙ぎに盾を逸らし、オーガの石の剣をパリィし、弾き飛ばした。


 その光景に瞠目して驚くオーガ。


 怪物のその表情にニヤリと笑みを浮かべると、彼は背後にいる仲間へと大きな叫び声を上げる。


「ジェイク!! リリエット!!」


「承知!」「はいよー!」


 オーガがよろめいた瞬間を見計らって、大盾の騎士の左右から、ロングソードを持った男と双剣を持った少女が現れる。


 彼らは俊敏な動きでオーガの懐へと入ると、クロスを描くように跳躍し、瞬く間にオーガの腕、そして首を切断していった。


 血しぶきを上げながらドスンと、目の前に落ちてくる巨大なオーガの頭。


 悲痛な表情を浮かべ死に絶えているそのオーガの顔を一瞥した後、騎士はふぅと短く息を吐いた。


 そして彼は、背後を振り返り、尻もちをついている少女へと声を掛ける。


「大丈夫か?」


「‥‥‥‥」


 怯えた表情を浮かべる少女に、騎士は手を差し出す。


 だが、彼女はその手を握らず、騎士の目を見つめたまま、ぽそりと呟いた。


「‥‥どうして‥‥‥‥どうして、もっと早く来てくれなかったの?」


「‥‥‥‥‥え?」


「お母さんもお父さんも、みんな、みんな死んじゃった。私、これからどうやって生きていけば良いの? ねぇ、教えてよ、おじさん‥‥教えてよ‥‥」


「‥‥‥‥」


 その暗く沈んだ瞳に、大盾の騎士は悲痛な表情を浮かべ、目を伏せる。


 そんな彼の元に、一人の修道女が駆け寄って来た。


 彼女は胸に手を当てゼェゼェと息を吐くと、背筋をまっすぐと伸ばし、ビシッと額に手を当て敬礼をする。


「ロクス兵隊長、お怪我はありませんか!? ‥‥って、その子は? この村の生き残りですか?」


「‥‥アルルメリア。この少女の怪我の治療と、保護を頼む。俺は他に生存者がいないか確認してくる」


「え? あっ、は、はい! 分かりました!」


 そう言葉を残すと、大盾の騎士は廃墟が建ち並ぶ村落を歩いて行った。


 村人の血と臓物がまき散らされた、その苛烈な戦場の姿に、悲痛気に顔を歪めながら――――彼は、空に浮かぶ満月を見つめ、小さく呟く。


「‥‥何で、いくら殺しても、魔物はいなくならないんだろうな」


 その言葉は誰に届くことも無く。


 白い吐息と共に冬の空へと、静かに消えていった。

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